078 シャングリラ後日談

□君に歌う歌
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「きゃ〜〜菜々ちゃん!! 久しぶり!! 元気だった!?」

「マリナさーん!! めっちゃ元気です!! いつもおみやげありがとうございますっ」

「菜々ちゃん、久しぶり! 変わってなくて安心したよ!」

「大北さん! 変わりませんよ! ちっちゃい子じゃないんですから!」

六月の始め。間もなく、達樹くんは映画の撮影のためにマレーシアへ発つ。暫く会えなくなることを心苦しく思ってくれた達樹くんは、発つ前に、舞台『シャングリラ』のメンバーと食事する場を設けると約束してくれた。そして、今日やっと正巳さんのお店でマリナさんと大北さんに会うことができた。最後に会ってから半年以上が経っていたが、マリナさん、大北さんも相変わらずだ。

「坂井は? 後から来るって?」

「はい。あと1時間くらいで行けると思うってさっきラインありました」

私が答えると、マリナさんも大北さんもニヤニヤした。

「なによ〜〜恋人同士っぽい!!」

「安心したよ。あんなことの後だし、菜々ちゃんが落ち込んでないかと思ってたけど、坂井のやつ、ちゃんとやることやってんな!」

二人の言い方に、急に恥ずかしくなってしまった。

「もう! からかわないでくださいよ! 今日、佐々木さんとか高崎さんは来られないんですか?」

「ミコトは、もう少ししたら明日香ちゃんと来るわ。高崎さんは今日ちょっと時間が読みづらいみたいだけど、来たがってたし、顔くらい出してほしいわね」

店先で話していると、声を聞きつけたのか、正巳さんが中から姿を見せてくれた。

「よお! 菜々ちゃん、久しぶり! 元気にしてたか?」

正巳さんも相変わらずで、こちらへ大股でやって来て、大きな手で握手をしてくれた。

「正巳さん! ご無沙汰してます。いつも貸し切りにしてもらっちゃって、すみません」

「なーに。今日は元々店は閉めてたんだ。ミコトが菜々ちゃんを連れて来てくれるって言うから、開けたんだよ」

「ええっ! わざわざ、すみません!」

「気にすんな! ミコトが来るといつも儲けさせてもらっちまうからな。今日はメニューにないオリジナルを振る舞うよ!」

皆の優しさに胸を熱くさせていると、見覚えのある車が現れた。

「お! ミコトだな。早いじゃねえか」

待ち切れず、私は車に駆け寄った。

「佐々木さんっ! ご無沙汰してます!」

「おー! 菜々ちゃん、久しぶり! 元気してる?」

「はい! 佐々木さんも、お変わりなさそうですね」

「みんな元気だよ。森野も連れて来たぞ」

「菜々ちゃん! 久しぶり〜〜元気そうだね!」

「わー森野さん! ご無沙汰してます! この前のドラマ観てましたよー!」

「えっ! ほんと!? うれし〜〜菜々ちゃんありがと〜〜!!」

そう言って、森野さんはぎゅっと私を抱き締めてくれた。

「はあ……『シャングリラ』思い出すね。あのドラマ、監督が『シャングリラ』を観てくれて、私をキャスティングしてくれたらしいの!」

「えーっ! なんか、私までうれしいです! そういえば、達樹くんも『シャングリラ』きっかけで主演映画が決まったとか言ってたなあ……」

「秋に公開されるやつね。坂井くんや私だけじゃなくて、共演者それぞれ、『シャングリラ』が次の仕事に繋がってること、多いよ! 菜々ちゃんは、芸能界入り、考え直してくれないの?」

森野さんの言葉に、佐々木さんもマリナさんも寄って来た。

「そうそう。こっちはいつでも準備万端なんだけど」

「そうよ! もう、坂井にあれこれと菜々ちゃんへのお土産託すんじゃなくて、直接渡したいんだけど!」

「あう……マリナさん、いつもありがたいんですけど……その話は、達樹くんが来てからまた改めて……」

なんだよ! と佐々木さんが声を上げる。笑いながら、お店の中に入った。あれから半年以上経つのに、それを全く感じさせない皆に、有り難い気持ちが溢れた。
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