078 シャングリラ後日談
□露呈
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深夜一時、そろそろ寝ようかと歯磨きをしていると、リビングから携帯の着信音が聞こえて来た。
「え……達樹くん!」
画面を覗きに行くと、電話の相手は達樹くんだった。こんな時間に何だろうと、慌てて口をゆすいで電話に出た。
「達樹くん。どうしたの? こんな時間に」
『ごめん、菜々ちゃん。遅くに』
「大丈夫だよ。どうかしたの?」
そう訊いても、達樹くんはなかなか用件を言おうとしなかった。その様子に、微かに背筋が冷たくなる。もう一度尋ねてみた。
「どうしたの……?」
『……菜々ちゃん、ごめん。週刊誌に撮られた。来週発売の最新号に記事が載るらしい』
「え……!」
私は言葉を失った。達樹くんは、最初は言いにくそうにしていたが、淀みなく続けた。
『菜々ちゃんは何も悪くないけど、しばらく会えない……ごめん。念の為、今後、予定のないインターホンには出ないようにして。差出人の書かれてない郵便物とかも、開けずに取っておいて、まず俺に見せて。それから、SNSでエゴサとかもしないようにして。もし周りの人に何か訊かれたら、できたら、人違いだとか言ってごまかして、話をそらすようにしてほしい。いい?』
「……うん……」
『ごめんね。菜々ちゃんは一般人だから、もし何かあれば勝てるけど、何かあってからじゃ遅いから、できるだけ自分の身の周辺に気を配ってほしい。俺がいつも側にいたいけど……ほんとにごめん』
「ううん……」
『落ち着いたら、また連絡するからね。じゃあ、おやすみ』
「うん……」
通話が途切れると、どくん、どくんと心臓が嫌な音を立てているのに気付いた。
週刊誌に撮られた……世間にバレる……。
私の足りない頭では、これから何が起こるのか想像がつかない。でも、達樹くんは……達樹くんは、きっと自分も大変なはずなのに、私のことだけを心配してくれてた……。
こんな時まで……達樹くん……。
ベッドに横になっても、私はいつまでも眠れずに輾転反側していた。