078 シャングリラ後日談
□露呈
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窓から外を眺めると、満開の桜が目に入った。ここのところ、どこで桜を見ても、花が好きだと話していた菜々ちゃんのことを思い出して、つい笑ってしまう。菜々ちゃんと付き合って、半年が過ぎていた。なかなか会えない日が続きながらも、時間を見つけてはお互いの部屋を行き来するという日々を送っていたが、半年が過ぎても、菜々ちゃんは全く俺に慣れてくれないようで、軽いスキンシップでも固まってしまうのが、今更だと思う一方可愛くもあった。そんなある日、マネージャーに呼び出され、俺は事務所の会議室に向かっていた。
「達樹。お疲れ」
「遠野さん、お疲れ様です。どうしたんすか?」
「どうもこうもないよ。週刊誌に撮られた。来週記事が出る」
息を呑んだ。いつまでも隠し通せるわけはないとは思っていたが、こんなに早く撮られるとは……。
「……どんな写真ですか?」
「これだ。加納菜々がお前のマンションを訪ねている所だな。お前が加納菜々と付き合っていることはわかっていながらも黙認して来たが、節度ある行動を取れってあれだけいつも言ってたのに……」
「遠野さん。俺も彼女も、やましいことは何もありませんよ」
「わかってるし、そうじゃないと困る。問題はそこじゃない。今お前は大事な時期なんだ。来秋、主演映画も公開されるし、CMの契約本数も伸びている所で熱愛なんか発覚してみろ。興行収入にも影響が出るかもしれないし、CM契約も打ち切られるかもしれない。そうなったら莫大な違約金がのしかかる。ファンも大幅に減るぞ。それに、ファンからバッシングを食らったら、ダメージを負うのはお前より加納菜々の方だろう」
「………」
何も言えなかった。遠野さんの言うことは間違っていないかもしれないが、俺も菜々ちゃんも何も間違ったことはしていないはずなのに……。
「とにかく、マスコミに囲まれてもノーコメントで通せ。それから、しばらく加納菜々には会うな。これはチーフマネージャーの意向でもある。いいな?」
「……わかりました」
重い足取りで会議室を出た。遠野さんの、「ファンからバッシングを食らったら、ダメージを負うのは加納菜々の方だ」 という言葉が頭の中で繰り返される。早く次の現場に向かわないといけないのに、俺はいつまでもその場から動けずにいた。