078 シャングリラ後日談

□コネクション
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暫くして、達樹くんは車で私を部屋に送ってくれた。こんな明るい時間に、達樹くんと二人で車に乗るなんて……とも思ったが、ドライブデートのような気にもなり、私はこっそり浮かれてしまった。

達樹くんはいつものように、私が部屋に入るまで見送ってくれた。車が去って行く音を聞きながら、はっと思い出し、弾かれたように鞄を開けて携帯を取り出した。

電話の相手は、ワンコールで出た。

『菜々!! 電話待ってたよ!! 大丈夫!?』

「仁美、ごめん! 私は大丈夫。そっちは?」

『大丈夫だよ。菜々、今日講義は?』

「今日は2限から!」

『わかった。私昼からだから、会って話そ! 部屋行くから!』

「うんっ」

慌ただしく通話が途切れた。仁美は三十分ほどで部屋にやって来てくれた。扉が開いた瞬間、私たちは抱き合って無事を喜んだ。

「仁美〜〜ごめん心配かけて〜〜!! 大丈夫だった!?」

「大丈夫だよ……菜々こそ、達樹くん怒ってなかった? 別れるとか言われなかった?」

「大丈夫、仲直りしたよ。ほんとごめん! 昨日どうなったの?」

仁美はソファにどさりと腰掛け、事も無げに言った。

「フツーに、菜々は実は付き合ってる人がいて、その人が迎えに来たって言ったよ。その方がいいでしょ?」

「ええっ!? うーん……まあ、確かにその方がいいか」

「そうだよ。嘘じゃないし、そう言っといた方が虫除けになるよ。あんた、どうせ達樹くんに、彼氏がいること内緒にしてるって言ってないでしょ?」

そう、坂井達樹と付き合っている、ということは仁美にしか話していないが、自分に彼氏がいるということさえ、仁美しか知らないのだ。そしてそのことは、なんとなく達樹くんにも話せていない。

「……言ってない……。言った方がいいの?」

「そりゃ、自分の彼女が、自分の存在を隠してるなんて知ったらいい気はしないよ。まあ、あんたって嘘がつけないし、どんな人? 写真見せて! とか言われないために内緒にしてるんだろなってことはわかるけど」

「そうなんだよ……そうなったらマジでどう対応していいか……」

「でもさあ、その結果、昨日みたいなことになったわけじゃん。鈴華と彩乃も言ってたよ。菜々が彼氏持ちだって知ってたらあんなことしなかったのにって」

「……疑わしいけどね……」

「とりあえず脅しはかけといた。菜々の彼氏はヤバい人だから、もうこういうことはやめときなって」

「ちょっ……ヤバい人って何よ!」

「いやヤバいでしょ? 坂井達樹だよ。ヤバすぎるよ」

「ヤバいけど! その言い方じゃアレな方向にヤバい人だと思われるじゃん」

「いいんだよそれでも。実際、鈴華も彩乃も、私たちもしかして何かされる? ってビビってたし」

「何それ……。あ! そういえば、ごめん。お金どうしたの?」

「ああ……そういえば、私も払ってないや。あの男の人たちが払ったんじゃない?」

「ええ!?」

ソファに凭れていた体を起こし、仁美はふてくされたように両手で頬杖を付いた。

「なんかさあ、最初は良かったよ? IT企業の社長と合コンなんてそうそうできないし、これをきっかけに私も彼氏ができたらなあって思ったけど」

「調子いいんだから……」

「でも、坂井達樹を目の前にすると、やっぱ霞むよね。イケメンすぎるし、プリンスすぎるわ。菜々、めちゃくちゃ愛されてんじゃん! 私も坂井達樹にあんな風に言われたいよ。『菜々はこのまま連れて行くから!』 あー、たまらん!!」

「ちょっと、思い出させないで……!」

そう言いながらも、昨日は状況が状況だったのでそれどころではなかったが、今思い返せば、あの時の達樹くんは、まさに白馬に乗った王子様だった。

「あの人たち、結構失礼だったじゃん? 菜々にばっかり話しかけて。しかも自分たちの話ばっか。お金に物を言わせるような言い方もイヤだった。だからかわかんないけど、坂井達樹を生で見たら、マジで菜々がうらやましくなってさ。店の中に戻って、菜々が帰ったこと伝えたら、口々に文句言い出した男たち見てたら、もうダルくなっちゃって。あの後割とすぐに解散しよーってなって、さっさと帰ろうとしたら、鈴華たちが追い掛けて来たから、脅しかけといた、ってわけ」

「仁美……」

「で、そっちはどうだったの? あの後。仲直りしたって……ケンカしたの?」

「あ……ケンカっていうか……」

あの後のことを掻い摘まんで話すと、仁美はうっとりとした表情で溜め息をついた。

「いいなあ、菜々……。達樹くん、ほんとに菜々のこと好きなんだね。私も、自分だけを好きって思ってくれる人と付き合いたいな……」

感じていなかったわけではないが、そう言われると、私は本当に恵まれているし幸せだと改めて思い知らされる。

「……私が達樹くんと出会えてこうしてお付き合いできるのは、本当に仁美のおかげだよ。感謝してる」

「なーに、今さら。別に怒ってないし嫉妬もしてないよ。菜々はずっとそばにいたから違うだろうけど、私にとってはやっぱりテレビの中の芸能人で、現実味ないしね。話聞いてるだけでお腹いっぱいだわ」

その言い方に、つい笑ってしまった。

「まあ昨日はハズレだったけど、もしまたIT企業の社長と合コンなんて機会があったら、飛びつこうかな。そろそろ私も菜々にノロケ話したいし」

「そうだね。私も聞きたい。達樹くんに、誰かいい人いないか訊いてみようかな」

「いやマジ訊いて!! 私も芸能人とイチャつきたい!!」

「何それ!! 嫉妬してるじゃん!!」

二人で笑い合い、そろそろ行こうと部屋を出た。達樹くんにも仁美にも散々迷惑を掛けたし、私も心臓が凍り付くほどの思いをしたが、結局達樹くんの優しさと温かさに、また助けられてしまったし、今まで以上に、達樹くんのことをもっと好きになっている自分に気付かされる。

合コンなんてもう二度と行かなくていいし、他のどんな男の人と知り合いにならなくてもいいから、達樹くんとだけはずっと仲良しで一緒にいたいな……と強く思わされるのだった。



END
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