078 シャングリラ後日談
□コネクション
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翌朝、私は大分早い時間に目が覚めた。すぐに状況を思い出し、隣を見ると、達樹くんが静かな寝息を立てている。
寝てる……坂井達樹の寝顔……!
整った顔立ちに、不覚にもときめいてしまう。
睫毛が長いなあ……。
ぼんやりと寝顔を眺めていると、急に達樹くんが寝返りを打った。腕がすぐ側に伸びて来て、体がびくついてしまう。起こさないようにそっとベッドを出て、お手洗いを借りようと立ち上がると、達樹くんの部屋着を身に付けた自分に気付き、朝から体が火照ってしまう。
彼氏のシャツを着て彼氏のベッドで目覚めるなんて……お泊まりっぽい!!
紛れもなくそうなのだが、とにかく、一刻も早く化粧をしようと、私は静かに部屋を出た。
化粧を終えても、時刻はまだ五時半だった。達樹くんが起きないといけない時間まで、まだ大分ある。
何か軽く食べられるものでも用意しようかなあ……でも、勝手にキッチン借りたり材料使うのも、よくないかなあ……。
考えながら、ぼんやりとリビングを眺めた。昨夜は突然、私がここを訪れることになったので、掃除が全然できてない! と達樹くんが騒いでいた通り、服、書類、郵便物、筆記用具などがそこかしこに散らばっていた。
ちゃんと生活感があって、ちょっと安心……。それに、思ってたより、全然散らかってないな。捨てに行けてないゴミ袋とかがあったらどうしようかと思った……。
こっそり笑っていると、バタバタと走る音が聞こえて来た。
「菜々ちゃん!」
「達樹くん。おはよう」
リビングに飛び込んで来た達樹くんは、大股で私の所へやって来て、ぎゅっと私を抱き締めた。
「ど……どうしたの?」
「……起きたら、いないから……物音もしないし、びっくりしたよ」
「あ……ごめんね。何かご飯、作ろうかなって悩んでたの」
そう言うと、達樹くんはほっと息をつき、改めて私の顔を見た。
「あれ!? もう化粧してる!?」
「あ、うん。さっき……」
「なんだよもう……朝明るいとこでちゃんとすっぴん見たかったのに」
「なっ……絶対イヤ!!」
早起きした私、えらい!!
これから、もしこうしてお泊まりすることがあっても、絶対達樹くんより早く起きて化粧しよう……!!
そう決心していると、達樹くんは腕を緩め、穏やかに笑い掛けてくれた。
「菜々ちゃん。さっきの、もう一回言って?」
「さっきの?」
「おはよう、って」
なんだろう? と思いながらも、先ほどの声のトーンを思い出しながら、言ってみた。
「……達樹くん。おはよう」
これで合ってる? と訊く間もなく、また抱き締められた。
「はあ……俺のシャツ着て、おはよーって……すげーいい。同棲してるみたい」
ど……同棲!!??
思わず固まると、達樹くんは楽しそうに笑った。
「あははっ! でも、ほんとに同棲したらこんな反応、すぐ見られなくなるかもな。時々泊まりに来てもらうくらいがいいか」
それはそれで、毎回、ドキドキしすぎて寿命が縮みそう……。
そう思いながらも、次にこの部屋に来る時は、昨日のような申し訳ない気持ちじゃなく、幸せな気持ちで来たいな……と、そう遠くはないであろう未来を楽しみにしてしまうのだった。