078 シャングリラ後日談

□コネクション
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「菜々! 今度の土曜日の夜、空いてる?」

成人式の数日後、朝必修の講義に出ると、友達の鈴華と彩乃に声を掛けられた。

「土曜日? バイト何時までだっけなあ……何かあるの?」

マフラーを外しながら鈴華タリアンのお店の半額クーポン手に入れたの! 4人からしか使えないから、仁美と行こうよ」

「へえ……おいしそう。仁美、行けるって言ってるの?」

「まだ聞いてないけど、来るでしょ。いつもヒマだって言ってるもん」

「いや確かに言ってるけど! そんな言い方してやるなよ!」

「まあまあ。菜々は? 行ける?」

「えっとねえ……18時までバイト入ってる。19時くらいからなら行けるかな」

携帯のスケジュールアプリでバイトの予定を読み上げると、二人は顔を見合わせてニヤニヤした。

「オッケー! 決まり! 19時に現地集合ね!」

言うだけ言って、二人はさっさと後ろの席に戻って行った。

仁美、ほんとに来れるのかなあ? 後で訊いてみよう……。

そう思っている私の後ろでコソコソと内緒話をしている鈴華と彩乃に、私は気付けずにいた。



二限終わり、私は食堂で仁美を待っていた。ぼんやりと、土曜日のことに考えを巡らせる。

バイトの後だとバタつくかなあ……土曜日だし忙しくなるかも……。

その時、仁美が現れ、丁度土曜日のことを切り出して来た。

「あー、さむさむ! 菜々。聞いた? 土曜日のこと」

「聞いたよ。仁美、行けるの?」

「行けるけど。ここ、さっき調べたら、半額でも高いよ。大丈夫かなあ」

「そうなんだ……あんまり、出費重ねたくないんだけどなあ……」

冬休みにはできるだけバイトには入るようにはしたが、それでも年末年始というのは出費が嵩むものだ。

「珍しいよね。鈴華も彩乃も、いつも『お金ないー!』って言ってんのに」

「まあ、たまには贅沢もしたいんじゃない? 私も、おしゃれなイタリアンなんて縁がないし」

「あんた、バイト先イタリアンレストランじゃん!」

「それとこれとは別。うちの店はチェーンだもん」

「関係あんの……? どっかで待ち合わせる?」

「私、18時までバイトなの。19時に現地集合って言われたよ」

「イタリアンのハシゴじゃん……。なら、私も直接行くわ」

この時は、深く考えずにおしゃれなイタリアンを楽しみにしていた。当日、血も凍るような思いをすることになるとは知らずに……。
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