078 シャングリラ後日談

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初めて達樹くんのおうちへお邪魔してから、二週間が経っていた。あの時の達樹くんの言葉通り、比較的すぐに彼は時間を作ってくれて、今、彼は私の部屋に遊びに来てくれている。しかし、せっかく達樹くんが側にいるのに、私は終始そわそわしきりで、心ここにあらずとも言うべき態度でいた。耐え切れず、目を据わらせて切り出した。

「達樹くん。私、悩みがあるんだけど」

達樹くんは、私の態度に発言が伴っていない様子に目を白黒させた。こんな言い方をする割に、なんでそんなに気が立ってるの? とでも言いたげだ。

「……唐突だね。どうしたの?」



話は、一週間前に遡る。仁美と大学の食堂でご飯を食べている時に、達樹くんから『来週の火曜日の夜、空いてる?』とラインをもらった私は、胸が高鳴るのを抑えながら、『うん、空いてる! 会えるの?』と返信した。私の様子を敏感に感じ取った仁美は、自分のことのように楽しそうだ。

「達樹くんでしょ。ライン、何だったの?」

「えへへ。今度の火曜日の夜、空いてる? って!」

「一週間後かあ。一ヶ月おあずけ食らった後だと、めちゃくちゃもうすぐに感じるね」

「えへへへへ」

「気色悪! ヘラヘラしてる場合じゃないでしょ。来週の火曜ったら、もう11月中旬だよ?」

「え? どういうこと?」

「12月1日。達樹くん誕生日じゃん」

はっ……。

「あああああ!! ほんとだ!! どーしよう!!」

「いやもうこればっかりは……ごめんだけどなんもアドバイスできないわ。全く浮かばないわ」

「つ、冷たい! 友達でしょ!!」

「友達だけどさ……私ら一般の女子大生の経済力で、坂井達樹が喜ぶような何かなんて、見当もつかないよ」

う……返す言葉もない……。

そんなこんなで、この一週間、とりあえず部屋のあちこちを掃除をしながらも色々と考えを巡らせてはみたものの、本当に何一つ思い浮かばなかった。趣味関係の物、身に付ける物、服や本、お花やケーキなど考えてみたが、どれも恐らく仕事仲間や共演者からもらっているだろうし、ちゃんとした物は私の微々たる稼ぎでは手に入れられない。極限まで追い詰められて悩みの向こう側に到達してしまい、考えると無意味にイライラするようになって来てしまったのだ。
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