お題小説C
□096 声に犯される
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ゴミを捨て終わって、軽くなったカートを引き、エレベーターを待つ間、山口さんは私の方をじっと見ていた。
な、なんだろ。ひょっとして見てたのバレてる?
「……何ですか?」
「いやぁ、今日さぁ、51卓にセッティングに行ってたの夏川サンだよね?」
「はぁ…そうですけど」
「あそこの男の子、可愛かったよね〜」
「……? そうですね」
「おもちゃ渡したら、すっげぇ笑顔で『ありがとう』ってねぇ〜」
「よ、よく見てますね」
……子供好きなのかなぁ?
そう思った時山口さんは、私を真剣な目で見つめて、
「でも、その子に『どういたしまして』って言ってた夏川サンの笑った顔も、すっげぇ可愛かったよ!」
と言った。
ああ、だめだ。
我慢なんて出来ない。諦めなんてつかない。あなたのその声で、もっと私の名前を呼んで欲しい。私の脳は、最初からずっと、あなたの声に犯されている。あなたの声が、私の脳から離れたことは無かったのだから。
「……山口さん」
「ん?」
「やーまーぐーちーさん」
「なーんーだーよー、夏川サン」
もう大丈夫。あなたのその声に、勇気を貰ったから。もう私、素直になれるよ、山口さん。
「……山口さん、好きです」
END