お題小説B
□088 心地良いから
1ページ/4ページ
088 心地良いから
「啓ちゃん、こっち来て」
「なに?」
「いいから。早く〜」
「何だよ……」
「啓ちゃん、抱っこ〜」
「え〜」
「はーやーくー」
「も〜」
「啓ちゃん、チューして」
「は〜?」
「して〜」
「しょーがねーなぁ」
啓ちゃん。ほんとは、そんなの要らない。ぜんぶ要らない。
愛されているという証が欲しい。愛されているという確信が欲しい。
啓ちゃん、あなたは、どういうつもりでわたしのとなりにいるの。
「……啓ちゃん」
「今度はなに?」
「……なぐさめて」
不審に思ったのか、わたしの顔を覗き込んで来る。ただ涙を流すわたしを見て、びっくりしたみたいだけど、わたしを抱く腕に力がこもった。
啓ちゃん。知ってるよ。
兄弟のような友達のような、そんな感覚なんでしょ。
啓ちゃんは、わたしがいなくってもちっとも寂しがらないし、わたしがいてもちっとも幸せそうじゃない。抱っこ、と言えば抱いてくれるし、チューして、と言えばしてくれる。でも、一切、自分からはしてくれない。
ただ、慣れてしまったから。なんとなく、心地良いから。
そういう感覚なんでしょ。知ってるよ。