お題小説B

□088 心地良いから
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088 心地良いから

「啓ちゃん、こっち来て」

「なに?」

「いいから。早く〜」

「何だよ……」

「啓ちゃん、抱っこ〜」

「え〜」

「はーやーくー」

「も〜」

「啓ちゃん、チューして」

「は〜?」

「して〜」

「しょーがねーなぁ」



啓ちゃん。ほんとは、そんなの要らない。ぜんぶ要らない。

愛されているという証が欲しい。愛されているという確信が欲しい。

啓ちゃん、あなたは、どういうつもりでわたしのとなりにいるの。

「……啓ちゃん」

「今度はなに?」

「……なぐさめて」

不審に思ったのか、わたしの顔を覗き込んで来る。ただ涙を流すわたしを見て、びっくりしたみたいだけど、わたしを抱く腕に力がこもった。



啓ちゃん。知ってるよ。

兄弟のような友達のような、そんな感覚なんでしょ。

啓ちゃんは、わたしがいなくってもちっとも寂しがらないし、わたしがいてもちっとも幸せそうじゃない。抱っこ、と言えば抱いてくれるし、チューして、と言えばしてくれる。でも、一切、自分からはしてくれない。

ただ、慣れてしまったから。なんとなく、心地良いから。

そういう感覚なんでしょ。知ってるよ。
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