お題小説B
□069 眠りにつくような
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ところが少女がそう思った瞬間、どこから入り込んだのか、彼が姿を現したのです。無意識に、少女は涙を零しました。
「な…なんで?どこから……」
「どーだっていいだろ、危ないからこっち来い」
ああ、いつもと変わらないなぁ。何があっても飄々としているこの態度、懐かしいな……。
少女がそう思った瞬間、地上で銃声が鳴り響き、悲鳴が次々に上がりました。少女は動転し、泣き叫びました。
「もうだめ! 私たち二人とも死んじゃう!!」
少女の悲痛な叫びを聞いた時、彼は静かに少女を抱き寄せ、頭を撫でて言いました。
「大丈夫、俺がついてんだろ?」
「でもっ…!」
「大丈夫! 俺を信じろ」
そして、彼の言った通り、その日兵隊は二人の元へは来ませんでした。外はしんと静まり返り、空に月が浮かぶ頃、彼は少女に、今夜は一緒に居てあげると、約束をしました。
夜も更けた頃、少女は彼の温かい腕の中で眠りました。しかし何故か夢に彼が何度も現れ、何だか今眠るのは勿体ないような、不思議な感覚に陥りました。少女はそっと目を開け、彼の方を見遣りました。光が全く届かないので顔も何も見えませんでしたが、その所為か聞こえて来る音に敏感になります。彼の規則正しい寝息は、ただ少女を絶望へと追いやるだけでした。
遅かれ早かれ、きっと兵隊はここを捜し当て、私たちを殺すだろう。あの時はもう一度彼に会いたいと思っていたけれど、いざ会ってしまえば欲望は膨れ上がる。……もっと、一緒に居たいと思ってしまっている。会わないまま死んだ方が、未練が残らなかったかもしれない……。