お題小説A
□051 癒えない傷
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051 癒えない傷
愛情だって同情だって、大切って気持ちが無いと生まれない。
大切って思ってくれてる、それは、判る。
だけど、あなたのそれは、愛情なの?
「……あ」
『どうした?』
「ごめん、今日授業五限まであるんだった。遅くなるから会えないかも」
『え、いーよ。俺の仕事終わる頃じゃん。車で学校まで迎えに行くから』
「え、それこそいーよ! 疲れてるでしょ」
『遠慮すんなよ。彼女なんだから』
……まただ。
愛してくれているなら、会えなくて寂しいとか、傍に居られて嬉しいとか、色々な感情が湧いてくるはずなのに、あの人からはそれが感じられない。ただ私が「彼女」という肩書きを持っているから、それだけでこんな風に優しくされる。
私があなたを好きだと言ったから、だから付き合っているんでしょう? 私がもしあなたに別れようと言っても、あなたは私を引き止めないでしょう?
私は本当は愛されていない、あの人が私の傍にいてくれるのは飽くまでも同情で。判っているのに、この苦痛から逃げたいのに、私にまでも情が移ってしまっている。
それはまるでピアスホールのような癒えることの無い傷で、彼という針がいつまでも私の胸を刺しているけど、針を抜いたときの失血が恐ろしくてどうにも出来ないのだ。穴が開き切り、痛みも麻痺し、傷が皮膚と同化してしまうまで、私には何も出来ないのだ。
そして、私がこんな風にぐずぐずと悩みを持て余していると、その悩みは、新たな悩みを呼び込む。
小さな痛みは、怒濤のような葛藤の序章に過ぎなかった。
CONTD.