お題小説A
□044 現し夢
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「そーか、入江が奈緒をなぁ。じゃ、俺らでキューピッドでもすっか」
「本人の前で言ってる時点でアウトだと思うけどね」
「あれ奈緒いたの」
「殴るよ。ってか何? 何でみんなして入江くんの味方してんの!?」
「そりゃおもしろそうだからだよ」
「わぁ言っちゃった。本音にしてももうちょい言い様があるんじゃないですか」
「でも別に奈緒ちゃんだって入江くんが嫌いなわけじゃないでしょ?」
「か・れ・し・い・るって言ってんじゃん!」
「だって、奈緒ちゃんが彼氏の話する時って、なんかいっつも愚痴っぽいよね」
「ああ、それは私も思ってたー」
「だってみんなの前で惚気話なんて無理!」
「じゃ、今してみて。ハイッ」
「………」
「ほらー!」
「……あのさー、入江くん」
「はい?」
「……冗談だよね?」
……聞かなきゃ良かった、と後悔した。あの入江くんの目には、さすがに返す言葉が見つからなかった。どうしたらいいんだろう、既にバイト仲間全員が入江くん側に回ってしまった。正直、私も、入江くんのことは嫌いではない。まして、今私は、彼氏よりも圧倒的に長い時間を入江くんと過ごしている。彼氏とは週に一日、それも二、三時間一緒に居られれば良い方だが、入江くんとは週に約四日、約六時間以上……。
彼氏のことは好きだけど、会わずにいたら、気持ちが離れてしまう。だけどシフトは減らせない。ああ、どうしよう……。
「おい、奈緒」
「え……」
「どうした? ボケッとして」
「あ…ごめん」
最悪、雅治の前でこんなこと考えるなんて……折角久々に雅治の部屋にお泊まりに来たのに。
「あ、やべ。そろそろ時間だ」
「また出張?」
「うん。ごめんな、奈緒」
「ううん……」
雅治がスーツに着替えて行く様子を、私は無言で眺めた。まだ外は明るみ始めたくらいで、こんなに早い時間から仕事に出て行く雅治に同情した。
……雅治が汗を流して仕事をしている間、私は入江くんと仕事をしている。ふらふらした気持ちのままで……。罪悪感が私を包んだ。
「じゃ、行ってくる。奈緒、次に暇ができたらまたメールするよ」
「うん…行ってらっしゃい」
ちゅ、と私の頬にキスをして、雅治は出て行った。取り残された私も、ゆっくりと服を着替えた。
CONTD.