お題小説A

□040 嘘つき
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暫くした後、あの人に見合い話が持ち掛けられた。あの人は遠慮したらしいが、大旦那様の命には誰も逆らえないことは、あの人も良く判っている。見合いの日の前夜、私は自分の行いを、初めて後悔した。



私は単なる女中である。主人のプライベートには関われない。関わってはいけない。私とあの人が恋愛関係に落ちることは許されない。もしそんな過ちを犯してしまったら、あの人は間違いなく勘当されてしまう。私の所為であの人が不幸になることだけは、どうしても私の理性が許さなかった。

それでも私の本能はそうではなかった。あの人が私の知らない人と一緒になって、幸せな日々を送るのかと思うと堪えられない。

ひらひらと揺れるカーテンが鬱陶しくて窓を閉めると、今度は何の音もしないこの部屋の静けさに苛立った。



輾転反側していると、ドアをノックする音がした。

あの人だった。
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