お題小説A
□039 ループ
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……そして、私たちは三ヵ月前と同じように、プールの飛び込み台の上に裸足で立っていた。ていうか今一月なんだけど。
「さっびぃ〜〜!!」
「あんたバカじゃないの!? あんたはズボンだからいいけどねぇ、こちとらスカートなんだよ北風に靡くんだよドチクショォ!!」
「わ、悪りぃ……」
「もぉお〜!!」
私は堪えかね、スカートで膝を覆いながら飛び込み台の上にしゃがみこんだ。
「そういや、お前の足、この前はやたら白くなってたよなぁ。今はどうなってんの?」
「うっさいセクハラ魔神!! それに寒くて生足なんか曝せねぇ!!」
「んだよそんな短いスカートはいといて説得力ねぇよ。隠し切れてねーぞ」
「……!! もぉ!! あんた授業何だったの!?」
「え? 英語。」
「お前バカ!? 出ろよ受験科目じゃん!!」
「いんだよ。言っただろ、大学なんか受かったって意味ねーよ。柄本がいないんじゃ」
そう言って、幸田は私と目線を合わせるように飛び込み台の上にしゃがんだ。
「……何なの…?」
「わかんねぇ?」
「わかるけど……」
思わせ振りでは、なかった。うれしい、でも、素直に喜べない。私のせいで、幸田が受験に失敗したら……。
私が、幸田を説得しなきゃ。
「でも、幸田…お願いだから勉強して。今からだって授業出れるでしょ」
「やだ。柄本といたい。」
「幸田っ……」
「なあ、柄本」
なんて表情で私を見るの。私から口を挟む余裕を奪うような表情。
「柄本は……俺をどう思ってる?」
初めて聞いた、焦燥の交じった幸田の声。私も幸田の目を見て、はっきりとした口調で言った。
「……好き、だよ」
「……そっか、よかった」
まるで、既知の事実を確かめたかのような口振りだった。
「……もういいでしょ? あんたの受験が終わったら、ゆっくりどっかに行こう。だから、今は早く授業に」
「まだ終わってない。柄本」
飛び込み台を下り、幸田が傍へ来て、私の手を掴んだ。温かかったが、少し汗ばんでいた。こんなに寒いのに…緊張してるの?
「柄本、頼みがある。今年の夏も、その次の夏も、このプールに来よう。そんで、現役の頃みてぇに、一緒に泳ごう。な?」
……呆気に取られた。
「別に、このプールで泳ぐ必要性はないんでない?」
「やだ。柄本に出会ったプールだからここじゃねーといや」
「子供かよ。」
「うっせぇ!! いいから返事を聞かせろ!!」
私は黙って、幸田の頭を抱いた。幸田は驚いていたが、どうやらこの行為を「承諾」と受け取ったらしく、満足そうに私の背中に腕を回してきた。
あったかい……。
初めて幸田に出会った季節を思い出した。
今年の夏も来年の夏も、かぁ。
幸田、大学が別だって、焦る必要なんかない。そんなこと関係ないよ。
だって、私たちには、何があっても巡ってくる夏がある。
END