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□026 瞳の色
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026 瞳の色
「どうしてあんなに綺麗なんだろう。きっと大好きなあの子が傍にいるからだ」
あの子が死んでしまったのか、遠くへ行ってしまったのか、私は詳しい事情を知らない。あの子は何も言わずに、私たちの前から忽然と姿を消した。……あの子は、何も言わずにふらふらとどこかに行くような子ではなかった。おそらく……もう、生きてはいないのだろう。
そして、あの子がいなくなったあの日から、
彼の瞳からは光が消えた。
いつ彼を盗み見ても、彼はいつも、私の目には見えない何かを見ているようだった。どこか一点を凝視する瞳。それなのに、その瞳に覇気は無い。
―――何を見ているのだろう。
まるで、あの子の居ない世界はこの世ではないのだと、彼の瞳が語っているかのようだ。だとすれば、彼が見つめているもの、それは……。
そう思った時、雲に隠れていた太陽が少しずつ彼を照らし始めた。
―――驚いた。
彼の瞳が、輝いている。
正確には、太陽が彼の瞳に張った涙を照らして、光の反射加減で輝いているだけなのだろう。
それでも、雲が動くたびに太陽の光もちらちらと動き、彼の瞳の色もちらちらと色を変えた。
不謹慎かもしれない。不謹慎かもしれないが、私にはその瞳の色はあまりにも美しかった。
あの子がまだ彼の傍に居たときの彼の瞳の輝きも美しかったが、あの子を失ってなお煌めく彼の瞳は、私には神秘的過ぎる。
誰かを好きになるということは、何と美しいことなのだろう。
絶望の底に居る彼を、もしかすると死の世界を見つめているのかもしれない彼を、私は少しだけ、羨ましいとすら思ってしまった。
CONTD.