078 シャングリラ後日談
□想いを形に
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遠野さんに呼ばれて事務所に戻ったのは夜だった。会議室に入っても、遠野さんはまだ来ていなかった。崩れるように椅子に座り、携帯を覗くと、菜々ちゃんからラインが届いていた。
『達樹くん、今帰ってきたよ!
お手紙ありがとう!
すっごくうれしい!』
その文面に、俺の方が嬉しくなってしまう。返信しようとすると、遠野さんが部屋に入って来た。
「達樹、お疲れ」
「お疲れ様です」
「なんだ、ニヤニヤして……加納菜々か?」
う……。
「……ニヤニヤしてました?」
「してたよ。部屋で一人でニヤニヤしてたら、めちゃくちゃ気色悪いぞ」
「いいじゃないっすか! イライラしてるよりは、ニヤニヤの方が!」
「まあな……。お前ら二人とも、栗原結愛のことは全く気にしていないんだな」
「いや……気にしてなくはないっすよ。でも、別に浮気したわけじゃないし……」
「……まあ、お前が機嫌良く仕事してくれる分には、何でもいいがな」
「それには、菜々ちゃんの存在が必要不可欠なんすけどね」
そう言うと、遠野さんはふうっと息をついた。
「……わかってるよ。俺もチーフも、一応な」
「ほんとすか? たまには、オープンなデートもしたいんすけど」
「別に駄目とは言ってない。イメージを大切にしろって言ってるんだ」
「わかりました。イメージを大切にしながらデートします」
「まったく……」
遠野さんは呆れたように椅子に座った。
「まあ、今回のスキャンダルについては、ライトな写真だったのもあってか、あまり世間も騒いでいないようだからいいが……この直後に、加納菜々と撮られたりしたら、今度こそ、お前が何を言われるか、わかったもんじゃないぞ」
「もういいじゃないっすか、菜々ちゃんと付き合ってるって公表しちゃえば」
「あのな。公表したらしたで、じゃああの栗原結愛との写真は何だったんだ、となるだろう」
それもそうか……。ああ……めんどくせえ。
「まあ、会うのを制限されるようなことがまたなけりゃ、何でもいいっすよ」
「だから駄目とは言ってない。お前は本当に、加納菜々と何かあるとすぐヘソを曲げるからな」
「もうそれは言わないでくださいよ!」