078 シャングリラ後日談
□天邪鬼
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「片桐さんって、どこから通ってるんでしたっけ。ご実家ですか?」
「ううん。大学の頃から上京して一人暮らししてる」
「マジですか!? すげえ……」
「井関くんは実家?」
「はい……イヤですよね……」
「そんなことないよ。今時多数派でしょ。お金も貯まるしいいじゃん」
それでも井関くんは申し訳なさそうだった。
「ちゃんと家にお金入れて、家のことある程度できれば大丈夫だよ」
「うーん、まあ、就職してからはお金入れてます……ご飯も時々作ったりしますよ」
「すごい! えらいじゃん!」
「上手ではないですよ。男の料理って感じで。カレーとかチャーハンとか焼きそばとか」
「十分だよ! 今度食べさせて!」
「はい……自信はないけど」
「私も、えらそうなこと言ってるけど料理うまくないよ。ごめんね」
「じゃあ、一緒に練習しましょう」
料理がうまくないなんて言うと嫌がられるだろうと思ったが、そんな素振りを見せない井関くんにきゅんとした。
「じゃあ、井関くんは東京出身なんだね」
「はい。地元出たことないんです」
「へえー。私その方がうらやましいよ。いっつも金欠だし」
「そっか……そうですよね。地元恋しくなりませんか?」
「たまにはね。でも地元の友達とこっち来て一緒の大学入ったし、今も近くに住んでるから」
「へえー! 仲いいんですね!」
「井関くんの話したら、いい子だって言ってたよ」
「俺の話してくれてるんですか!!」
「うん、まあ……」
「やべえ……うれしー……」
ぎゅっと目を瞑り、井関くんは深く息をついた。そして私に向き直り、真剣な顔で言った。