078 シャングリラ後日談
□一に看病二に薬
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「あっ! りんごがある! 食べたい!」
達樹くんの買って来てくれたスーパーの袋を覗くと、おいしそうなりんごがあった。
「病気したらりんご食べるイメージあったから買ってみたんだ。じゃあ剥いて来るよ」
「わー、うれしい! ありがとう!」
ベッドに横になり、わくわくして待っていたが、達樹くんはなかなか戻って来ない。もしかして包丁でケガでもしたんじゃ……と心配になり体を起こしたタイミングで、漸く達樹くんが戻って来た。ところが……。
「菜々ちゃん……ごめん。すっげえガタガタになったわ」
「え? わっ! 何これっ!」
お皿に乗せられたりんごは、それはもう可哀想なくらい身が削られている。
「あはははっ! も〜ひどい! ヘタ……!」
「いやめっちゃむずいわ! 手ぇつりそうになった……」
「ケガしてない?」
「大丈夫だけど、すっげー悔しい……むずい!」
「もう……涙出てきた! もう1個あったよね? 見てて!」
キッチンの三角コーナーには、ブツブツと途切れたりんごの皮が捨てられている。その皮は身がかなり付いていて、皮とは言えない厚さだ。
「慣れるまでは、切り分けてから皮剥いた方が簡単だよ。こうやって……」
四つに切り分け、ヘタとお尻と種の部分を落とし、皮を剥いた。
「ほらね?」
「ほんとだ……やらして!」
達樹くんの手付きを見ていると、もう目を逸らしたくなるほどハラハラしてしまう。
「包丁の刃に親指を添えて。切れないから大丈夫。こう」
「んっ……こう?」
「そうそう! そのまま……」
先ほどよりはだいぶ良い状態で皮が剥けたりんごを見て、達樹くんは目を輝かせた。
「できた! 俺でもできた……!」
「上手だね! もうひとつやってみて? そう……そうそう!」
ひとつ皮を剥く度に、達樹くんは上手になる。最後の一切れは、私が剥いたものと変わらない出来映えだ。
「うわーすげえ! ありがとう!」
「よかった! 達樹くん上手!」
「最初のりんごに申し訳ないことしたなあ……」
「ふふ。味は変わらないから大丈夫だよ」
「……そうだね。あーん」
ガタガタのりんごを、達樹くんが食べさせてくれた。
「あまーい。おいしい!」
「俺にもやって?」
「ええっ!」
大きく開かれた達樹くんの口に、ガタガタのりんごをそうっと入れた。
「あ。うまい! 甘いね」
「うん。りんご、久しぶりに食べた! おいしい」
「俺、果物の中でりんごが一番好き」
「え!? それなのに剥くのヘタだったね」
「ヘタって言うなよ! そう、うまいんだけど剥くのめんどいんだよ……だからつい、自分で買う時はみかんとかバナナとか簡単なやつになるんだよな……でも、これからはりんご買えるわ!」
嬉しそうにりんごをぱくぱくと頬張る達樹くんを見ていると、本当に元気になって来る。自分だけたくさん食べていることに気付いたのか、私にもあーん、と食べさせてくれる達樹くんに、この人のおかげで元気になれたんだなあ……と改めて温かい気持ちになるのだった。
END