お題小説C

□096 声に犯される
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096 声に犯される

慌ただしい、店内。

「62卓、アフターOKでーす!!」

「23卓のバースデー、トマトピザツーOKでーす」

「ゴメン、このカレーバーグ二つ、43卓に持ってってもらえる?」

「ただ今シュガーバターミルクが焼き立てでございまーす!!」

私のバイト先は、土、日は台風のように忙しい。様々な声が、パントリーに響き渡る。そして、例に洩れず、あの人の声も。

「62、アフターOKって? シルバー行ってる?」

「行ってないんじゃない? 私、行っとくよ」

「まじすか!! じゃあ急いで作りますね〜」

「はいよ〜」

ああ、違う人と、また喋ってる。仕事だし、しょうがないんだけど。

初めて会った時、私はあの人の声が嫌いだった。男の人の声にしちゃ何だかやたら高くて、癖のある声だ。耳障りで、やたら鬱陶しい。あの人のあの声の所為で、バイトに向かうのが億劫だった。それでも私が店長や先輩に怒られたりした後、慰めてくれるのはあの人だけだった。

「大丈夫だって夏川サン! 絶対使える奴になってあいつら見返そーぜ!」

「あっ、スゲー夏川サン、洗い場回すの早くなったな!」

「俺も最初はよくやったな〜コレ。このボタン押したら、元に戻るよ」

それでも、二ヵ月も経てば、怒られるようなことも、失敗も減って来て。私とあの人が喋る機会は、確実に減って行って。私はまた、バイトに向かうのが億劫になる。

しかし、仕事には私情は必要ない。諦めて、とにかく毎日、我慢しながら働いていたけど……。
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