お題小説C

□091 愛をするひと
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091 愛をするひと

「喜ぶ顔が見たい」なんて、結局、相手の喜ぶ顔を見ることで自分が喜びたいだけ。

「私と居ても苦しませてしまう」なんて、結局、度重なる軋轢から逃げる為の言い訳に過ぎない。



恋愛なんて、結局は独り善がり。自分の快楽の為、自分の保全の為。自分が楽しくないなら、自分が幸せでないなら、誰かと愛し合う意味は無いのだ。そして、誰もが、そのことを承知で、誰かに恋をする。相手の独り善がりだと判っていても、許せてしまう相手、それが恋人であるのだ。

だけど、私は、その事実が憎い。全てをこの人と共有したい。同じように感じたい、同じように笑いたい。あなたに、幸せになって欲しい。

それなのに、その願いさえも己の欲望で。その願いが叶って欲しいと思うのは、その願いが叶わない状況に私自身が堪えられないからで。結局は自分の為で。

狂おしく悲鳴を上げる私の心の中を、あなたは容易く読み取る。そして、笑う。



「だけどおまえがそうして悩むのは、俺の所為なんだろう。たとえばそれが自分勝手な欲望でも、俺に幸せになって欲しいと思うのは、俺を愛してくれているからじゃないのか。もし俺に不幸が訪れても自分は幸せでありたいと願うなら偽りの愛だが、おまえは違う。二人で同じ幸せを掴みたいと願っている。恋とは求めること、愛とは与えることとはよく言ったものだが、与えることを欲することもまた愛なのかもしれない。それでいいじゃないか。おまえの気持ちは、綺麗だよ」



ああ、綺麗なのは、あなたです。欲に塗れた私を、温かく温かく包み込んでくれる。醜い自分を許せるくらい、気持ちが安らぐ。

この気持ちもまた、愛なのかもしれないね。





END
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