お題小説B

□073 もらい泣き
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073 もらい泣き

鳴く蝉よりも、

鳴かぬ蛍が、

身を焦がす。



あの子は一日中、泣いていた。人目も憚らず、授業中でも、昼休みでも、ずっと涙を流していた。その姿は、痛ましかった。肩を震わせ、声を殺そうとするも、漏れる嗚咽は響き渡り。皆、何も言えなかった。

でも私は、知っている。あの子を泣かせたあの男。涼しい顔をしているあいつが、どうしてあの子を振ったのか。

あの子は知らない。卒業したら、あいつは上京することを。離れ離れになってしまうことを。

そして、

本当は、あいつもあの子が好きだったんだってことを。

あいつはあの子の為に、悪者になった。自分から悪者になった。半端な愛情は嫌悪よりも残酷だということをあいつは知っているのだ。

本当に痛ましいのは、あいつの方だ。



あの子の流す涙よりも、あいつの心の中の涙に、もらい泣きせずにはいられなかった。





END
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