お題小説B

□069 眠りにつくような
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069 眠りにつくような

遠い昔、その国は内乱に悩まされていました。政府は最早壊滅状態、国は
西と東に分かれ、国民は元の十分の一までに減ってしまっていました。それでも西と東は啀み合い、罪の無い国民達は、敵の兵隊達によって、次々と殺されてしまっていたのです。辺りには煙が立ちこめ、その所為で空は常に灰色、けたたましく銃声が鳴り響き、心が休まる日などまるでありません。国民は皆、常に自分の死と隣合わせの状態でした。

それでも国民達は知恵を振り絞り、何とかしてこの内乱が終わるまで生き抜こうと、様々な方法を考えました。海外へ逃げた者も居れば、自分自身も軍隊へ入り、身を守ろうとする者も居ました。



その少女の地域の人々は、皆家の地下に深い深い穴を掘り、必需品を全て家からその穴に移し、光も届かない場所でひっそりと生活していました。いつまでこの方法が軍隊に隠し通せるかは判りませんでしたが、それでも皆でお互いを励まし合い、食事は全てインスタント食品で済ませ、息を潜めて眠るという生活は三ヵ月程続いていました。

そんなある日、少女の耳に恐ろしいニュースが飛び込んで来ました。この近所の誰かの地下室が、敵の軍隊に見つかったらしいのです。低い男の声が、鈍く地下室に響きます。

「ちくしょう、こんな所に地下室なんぞ作ってやがったのか! 一人も逃がさねぇぞ、おい! 地下室を捜すんだ!!」

ああ、もう私も殺されてしまう。少女は真っ青になって身震いしました。今死ぬ訳にはいかない。今死ぬ訳には。

少女には恋人がいました。いつも優しく、温かく、何があっても傍に居てくれた恋人が。あの人にもう一度会って、例え私がこの命を落としても、変わらず貴方を愛していると伝えなくては死んでも死に切れない。ああ、後一度だけでいい、あの人に会いたい―――。
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