お題小説A

□046 宙吊り
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046 宙吊り

朝、蝉の鳴き声で目覚めるようになり始めた頃、私に初めて彼氏が出来た。とても恥ずかしがり屋で、普段滅多に笑顔を見せない。でも、時折見せる優しい表情や仕草がとても好きで。

夏休みになって、会えなくなる日が続く前に、好きだという気持ちを彼に伝えた。彼は恥ずかしそうに下を向いて、小さな声で「うん」と呟いた。私はその言葉の意味が判らなくて、顔を覗き込みながら「付き合ってくれるの?」と尋ねた。すると、彼は赤くなって、更に小さな声で「うん」と呟いた。



あれから既に、二週間が経っていた。彼の照れ屋さんは相変わらずで、私との会話は弾まない。友達と一緒にいる時の方が楽しそうだ。それは仕方がないことだけど、何だか寂しかった。付き合うことになってから一緒に帰ったことも手を繋いだことも名前を呼ばれたことも無い。

急に不安になった。ぱっと彼の方を見ると、ぱっと目を逸らされた。判ってはいても、哀しくなった。



私の気持ちは常に落ち着かなかった。まるで足を縛られて天井から吊されたような、「早く戻して」という気持ちで頭の中はいっぱいだった。彼が心を開いてくれるのを待とうかとも思ったが、早くこの縄を解いて欲しかった。

今日は一緒に帰ろう、と彼にお願いした。
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