お題小説A

□045 鷹の爪
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045 鷹の爪

舌と、

心に、

傷が一つずつ。



いつからか、会う度に、喧嘩が増えるようになっていました。私も、彼も、笑うことなんて殆ど無くなって。部屋には彼の怒声と、私の涙声が響いて。

―――好きだから、傷付ける。一番、傷付けたくない人を。

私と彼は、好き合ったまま、離れることにしました。私は、初めて、彼の流す涙を見ました。彼は、それを誤魔化すように、「最後だから」と小さく呟いて、私に深いキスをしました。とても長い口付けでしたが、最後まで、私の唇は震えていました。そして、二人の唇が離れた時、彼は何も言わずに、一度もこちらを振り返らずに、私の元から去って行きました。



私の舌には、鷹の爪を噛み潰したような痛みが、

私の心には、鷹の爪に抉られたような傷が、

いつまでもいつまでも、残りました。





END
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