お題小説A

□037 どうよう
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037 どうよう

もう随分長い間、奴は俺の道具だった。俺の言うことは何でも聞くし、呼べばすぐに来るし。最初は抵抗もされたが、少し殴ったりしてやれば大人しくなったし、最近では奴も諦めたのか、それとも素直に俺の言うことを聞くことが自分が傷付かない為の最良の策だと考えたのか、随分と俺に従順になった。

しかし、偶然、奴を街で見掛けた。友達数人といるようだった。へぇ、あいつ、俺といる時は自嘲したようなのとか、苦笑いとか、そんな笑顔しか見せない癖に、俺のいねぇ所ではあんな風に笑えるんだな……。

そう考えた時、何故か俺の手はケータイを取り出し、俺の指は奴の番号を検索していた。こっそりと遠くから奴の様子を伺うと、奴は自分のケータイが鳴った瞬間、急に無表情になった。―――いつも俺といる時と同じ表情だ。奴は友達に何か短く話して、足早にその場を離れて行った。
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