お題小説A
□033 アルビノ
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033 アルビノ
「……何してるの」
「久しぶりだな」
「帰って」
「ひでえ」
「帰って!!」
「ふざけんな!! どんだけ探したと思ってんだ!!」
ちっぽけな病院の片隅で、彼女はひっそりと横になっていた。三ヶ月前の彼女からは想像もつかない。悪い予感は的中した。なぜ彼女が俺の前から黙って消えたのか、今のこの彼女の姿からなんとなく想像出来た。
「……何も言わずに街を出たのは、謝るわ。だけど、わかるでしょう? もう……」
「やめろ。そんなことを聞くためにこんなとこ来たわけじゃねぇんだよ」
「じゃあ、何を聞きに来たのよ。あなたが望んでるような答えなんて、今の私は持ち合わせてないわ」
「そんなはずねぇよ。素直になれ」
「……素直よ。あなたが嫌いになったんじゃないわ。あなたをまだ好きだから、あなたのそばにいるわけにいかなくなったのよ」
「それが意味わかんねんだって。何で俺を頼ろうとしなかったんだよ。俺じゃ力不足だってのか?」
「違うわ。あなたに心配や迷惑をかけたくなかっただけよ」
「冗談じゃねぇ。お前の気持ちはその程度のもんだったのかよ」
「いい加減にしてよ!! 埒が明かないじゃない!!」
そう叫んだ瞬間、彼女は大袈裟に咳き込んだ。思わず彼女の体を支えた俺は、彼女を襲った病の脅威の片鱗を目の当たりにした。体は痩せて軽くなり、瞳から生気は感じられず、そして、あんなに元気で、外を走り回るのが大好きだった彼女の健康的な肌は、透けるように薄くなっていた。彼女は俺の手を振り払い、俯いた。
「だから、嫌だったのよ」
気丈な彼女が、泣いている。俺は黙った。というよりも、彼女の話を聞くことに集中しようとしたのだ。彼女の命が残り僅かになっているという実感が込み上げ、俺はその場に座り込んだ。
「あなたのためじゃない。他の誰でもない私が、辛いの。あなたのそばにいると、生きられないのに、生きたくてたまらなくなる。それはあなたにも、どうしようもできないのよ」
愚かだった。彼女の苦しみも痛みも、俺にはどう足掻いても理解できるものではないのに。
「……ごめんなさい。不快な思いをさせたわ。わざわざ足を運んでくれたのに」
「………」
「……どうしたの?」
手を、握った。抱き締めたかったが、出来なかった。