お題小説A
□032 木漏れ日
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032 木漏れ日
叫んでも叫んでも、この声はあなたに届かない。
昔から、辛いことがあるとよくここに来た。どうしてか、ここに来ると悲しい気持ちが晴れたり、解決策が見つかったりした。私の特別な、木漏れ日の美しい場所だった。
どうして今までは私を助けてくれたのに、今度はだめなの。どうしてこの気持ちを消してくれないの。意地悪、ずるいよ。
横になって上を見た。変わらない、美しい木漏れ日。美し過ぎる、木漏れ日。
何かに頼ろうとする醜い自分とはまるで正反対で、心が傷んだ。あの美しさが妬ましくさえ思えた。
「う……」
涙が溢れた。今までなら、ここに来れば涙なんて引っ込んで行ったのに。傍の木にドン、と手をついた。
その時、一枚の葉っぱがひら、と落ちて来て、涙を拭うように私の頬を撫でた。思わず、また上を見た。
変わらない、美しい木漏れ日。
そうか、昔の私は、別にこの木漏れ日に悲しさを消して貰っていたわけじゃない。このあまりの美しさに、それまでの悲痛な思いを自分で勝手に忘れてしまっていただけなのだ。それほどの小さな悩みだったのだ。
すぐに忘れられる小さな悩み。
今度もそうだと言いたいの?
きっと自分で解決できるから、泣かないで。
そう、言いたかったの?
自分の涙に濡れた葉っぱを拾い上げ、もう一度上を見る。
ああ、私の今の悩みなんて、
この美しく雄大な木漏れ日に比べたら、あまりにも卑小だ。
END