お題小説B
□083 常陰
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「あー、気が付いた?」
「先生っ!! 今何時ですかっ!?」
「3時半よ。みんな掃除し始めてる頃かな?」
「うわぁ、みんなに心配かけちゃった……」
「大丈夫よ。そう思うんなら、早く戻ってあげなさい」
「そ…そうですね。じゃあ、失礼します」
「あ、やだ冗談よ。もう少し寝てたら?」
「いえ、もうだいぶいいですし。ありがとうございました」
「そう? じゃ、これ温タオル。お腹に入れておくといいわよ」
「えっ、すみません。洗って明日返しますね」
「いいってことよ。じゃ、お大事にね」
「はいっ」
教室に戻ると、みんなが一斉に駆け寄って来た。しかし、そんな中、一人だけ興味無さそうに頬杖を付いている奴がいる。私はそれを目を細めて眺めた。
放課後になってみんなが帰った後、そいつはゆっくりと寄って来て私を全力で気遣う。こいつはあの時からそうだった。人と話すのが苦手らしいが、偶然二人で居残りか何かで残った時、そいつは突然私に笑いかけた。「俺に何の壁も作らずに喋りかけてくる奴はお前くらいだ」と。私、普通にしてたつもりだったんだけど。
以来、こいつは放課後になって誰もいなくなると、何も言わずにやって来て色々と私の世話を焼く。最初は複雑だったがもう慣れた。
「早く帰んなくていいのか?」
「うん、温タオルもらったから。コレほんと効くんだよ! 雨宮もいる?」
「……突っ込まねーぞ」
「ちぇっ」
私は人前で雨宮に話し掛けることを避けた。私と雨宮が喋っているのを見たクラスメートにからかわれたくなかったからだ。雨宮が人前では話し掛けて欲しくなさそうにしていたのもある。だって、そうじゃなきゃわざわざ人のいない放課後に寄って来て話なんかしないし。こんなに普通に喋れる人なのに。勿体ない気もするけど、こいつがこんなに笑顔を作ってくれるのは二人でいる時だけだ。横向きに椅子に座っていたのをずらして、机を挟んだ向かい合わせになった。