078 シャングリラ後日談
□君に贈る花
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「むっかつく〜〜〜!!!」
「いや確かにムカつくけど、もう、あんた好戦的すぎっ! あんな人の目がある場所で何してんの!」
「あーまで言われて黙ってられるかっ! あれがイヤで別れたのに、なんで今になってこんな思いしなきゃなんないのっ!」
「落ち着きなって! もう……」
そう言うと、仁美は私の耳に手を当てた。
「今日、達樹くん来てくれるんでしょ!」
小さくてもはっきりとした声で、仁美は大切なことを思い出させてくれた。
「そ、そうだった……。仁美、ありがと」
「怒ると化粧崩れるよ。せっかくの晴れ姿なんだから、きれいって言ってもらわなきゃ!」
「うー……ごめん……ありがと……」
そうは言っても、達樹くんはお仕事が忙しいだろうし、本当に来てくれるかどうかもわからない。モヤモヤした気持ちのまま、式典に出席した。夕方から同窓会があるとのことだったが、もう同級生に囲まれて色々言われるのもしんどいし、また元彼に遭遇するのは勘弁して欲しい。私も仁美も、翌日は大学に行かないといけないし、帰りを考えて、昼過ぎに梨央と友加里と四人で振袖のままお茶するだけに留めておいた。
「はあ……」
梨央と友加里と別れたのは十七時過ぎだった。達樹くんからの連絡は、まだない。
「楽しかったけど、疲れたね……。寒くなってきたし、振袖苦しいし。早く脱ぎたい」
「私も脱ぎたいけど……達樹くんのために、着とかなきゃなあ」
「でもさあ、帰りのこと考えたら、あんま待てないよね。一回実家帰って、着替えなきゃいけないじゃん」
「そうだね……でも、できるだけ粘るよ。もう……達樹くんに会いたすぎてやばい……癒されたい」
「ぷっ。うん……確かにね。しょーがないな、付き合うよ!」
「仁美ー!! うれしい!!」
「達樹くんが帰ったら、連絡して? 一緒に東京戻ろ!」
「うんっ!」
その時、携帯が震えた。慌てて画面を覗くと、それは待ち焦がれていた相手だった。
「達樹くん!」
『菜々ちゃん、お疲れ! 終わったよ!』
「達樹くん〜〜……お疲れさま!」
『すぐ行くね! つっても、時間かかるけど……大丈夫かな』
「待ってる! 早く会いたい……。気を付けて来てね!」
『ありがとう。俺も早く会いたい。待っててね』
慌ただしく、通話が途切れた。仁美がニヤニヤしながら私の顔を覗き込んで来る。
「なによ〜〜菜々、素直! かわいい!」
「だって! 会いたいよ!」
「そうだね、今日は疲れただろうし。意外と連絡早くてよかったじゃん!」
「うん。下手したら終電で帰ることになるかもって思ってた」
「じゃあ、達樹くんが来るまで、私と成人式の続きしよっか!」
「ええ!? 何それっ!」
達樹くんが来てくれるまでの二時間、仁美と懐かしい地元を歩いた。仁美と出会った中学校を覗くと、当時のことが思い出され、懐かしい気持ちが溢れたが、足がすぐに疲れてしまい、二人でまた近くのカフェに入った。殆ど毎日顔を合わせているのに、今日のことをあれこれ思い出すと、話題は尽きない。二時間はあっという間に過ぎて行った。
「……あ。そろそろ、達樹くん、着く頃じゃない?」
仁美の言葉に、慌てて携帯で時間を確認した。
「ほんとだ。出よっか」
「うん。いいなあ、菜々……。ほんのちょっと振袖姿見るためだけに、往復4時間もかけてこんな田舎まで来てくれるなんて、すごいよ!」
……本当に、その通りだ。
「そうだよね……。仁美、もうちょっとだけ付き合ってくれる? 達樹くんから連絡来るまで……」
「え? どうしたの?」
「ちょっとね。とりあえず出よ!」