ミックス

□Sweet Christmas
2ページ/5ページ

「イブだしさ、さっさと進藤引き取ってどっかに連れこんで」
「連れこ……?」
「いやまあそれはお好きにって感じですけど、とりあえずうちじゃアレだし」
「アレって何だ」
「……ちょっとは気を利かせろって事だよ……」
「?」
「だーかーらー、はっきり言うと今夜は進藤にさっさと帰ってもらいたいんだって!」
「邪魔なのか」
「ああ邪魔だな今日は」
「っ、君はっ!」
友達の癖に、と、思い人が邪険にされた怒りにアキラは声を上げる。
「あのなあ、怒るなよ……」
仲の良い所を見せたら見せたで怒るくせに、男心は複雑だ。
「クリスマスイブなんだからさ、俺たち……俺と伊角さん二人で過ごしたいわけ!」
ターミナル駅で人が大量に吐き出されたのを見計らって和谷は懇切丁寧に説明した。忍耐は限界に近い。
「……なるほど」
アキラが考えこむ。
「やはり普通はそういうものなのか……」
「おいおい、クリスマスっていやあ恋人同士の一大イベントだろ!」
和谷の、ごく一般的な感覚の常識によるツッコミに、
「クリスチャンでなくともか」
常識の通用しない王子はまともに疑問を呈した。
「……」
和谷は疲れて、がっくりと頭を下げる。これが伊角なら、「そうだよなあ、ほんとは宗教行事なのになあ」と笑って話を合わせてやれるのだろう。
だがあいにく和谷はそこまで大人ではなかった。
「……降りるぞ」
もはやアキラが後をついてくるのを確認もせず、黙々と歩く。アキラもそれを全くもって気にしない。
「あ! 忘れるとこだった!」
アパートが近くなり、和谷は突然叫んだ。ビンテージの革鞄をごそごそと探り、
「じゃんっ♪」
特徴のある赤い帽子を取り出す。
「……何だそれは」
「サンタさん」
「……」
想定の範囲内の冷たい視線をあえて無視して、
「丁度いいや。お前もコレ付けろよ」
和谷は、トナカイのツノとミミのついたカチューシャをさっとアキラの頭に載せた。
「っ、何だこれは!」
「お前トナカイ、俺サンタ。メリークリスマス!て感じで帰るんだよ」
お祭り人間の和谷は、サンタの白いヒゲを顔に貼って得意気に笑う。
「い、いらない!」
「固いこと言うなよ。行くぞ」
「な、何で君がサンタクロースで僕が……」
釈然としないものを感じながら、ヒゲを貼る気もないアキラは、
「たっだいまー! メリクリ!」
和谷の影に隠れる様に狭い玄関に入った。結果、目の前に広がる衝撃的な光景を和谷より遅れて目撃したのは良かったのか悪かったのか。
「……」
ダイニングの床に、折り重なっていたのは伊角とヒカルだった。
空気が一瞬で凍る。
「っ、進藤テメ……っ」
熱くたぎる血で最初に反応したのは、和谷。
「伊角さんに何をっ」
「っ! ちが、和谷っ」
歯を剥いて掴みかかる和谷に、ヒカルはあわを食って伊角の上から飛び退く。
「俺のいない間に……っ」
「違うっ違うってば! まだなんもしてないって!」
「『まだ』?!」
「ちが、だからぁっこれには訳があってっ」
いつもは仲裁に入る伊角は、無言で肩から落ちた毛糸のカーディガンを引き上げてうつ向いた。
アキラはやっと、事の次第を把握する。
「……!」
まさか、と、とっさに言葉が出ない。
「訳もなにもあるかっ!」
「聞けってば和谷!……てゆーか」
ヒカルはどんな時でもヒカルだ。
「サンタさんかよー……お前もうハタチだろ」
どうにもこうにも我慢できず、自分を押さえ込む同僚の付けた白ヒゲを引っ張ってつっこむ。息を飲んだ和谷のマグマが大きく噴火する前に、
「進藤!」
もう一人の関係者が口を開いた。
「僕も聞きたい。どうして君が、彼……伊角さんをてごめに」
「……てごめってナニ?」
「つ、つまり」
「だー! 塔矢っ、お前も悪い! お前がちゃんと進藤を管理してねえから、」
「か、管理って何だよ和谷!」
「そうだ。いい加減、進藤の上からどいてもらおうか」
蒼白な顔のアキラ(トナカイ)を見て、ヒカルは改めて和谷以上に説明が大変な相手を思い出す。
「とっ、塔矢……あのさ、あの……えっと、伊角さんとプロ……プロレスやってたんだ! 大晦日も近いしさ! そうだよ和谷、それでさ、寝技かけようとしてあんな事に、」
早口であまりうまくない言い訳を言い募るヒカルに、静かな声がかけられた。
「もういい、進藤」
声の主を、年下の3人が振り返る。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ