ミックス

□優等生と犬
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棋院を出ると、和谷が両手をワークパンツのポケットに突っ込み、ふてくされた表情で立っていた。
「…待ってたのか」
「うん」
「遅くなるって言っただろ」
「伝言。あったから」「…?」
和谷が先に立って歩きだす。駅まで送るつもりか、あるいは自宅のアパートに行くつもりか。
「塔矢が」
「うん?」
思わぬ名前が出て来て、伊角は一瞬戸惑った。
「ありがとうございましたって」
「……」
何の事だ、と問おうとして、はたと思い出した。
「ああ、あれか」
大したアドバイスをできた覚えはなかったが、その後うまくいったらしい。
「『また宜しくお願いいたします、と伝えて下さい』だって」
また、とは…そら恐ろしいものを感じながらも、頼られるのは長男たるもの本懐である。
「そうか、分かった」
「…なんっか」
突然和谷が立ち止まる。
「おもしろくねえ」
「は?」
「は?じゃねーよ伊角さんっ!ナニ塔矢なんかに懐かれてんのさっ」
振り返りざま、両肩を掴まれる。
「懐かれ…てるのか?」
ただ相談にのっただけのつもりの伊角には、当然の疑問だった。
「懐かれてるだろどう見ても! あの!俺の名前も認識してなかった塔矢アキラが、伊角さん伊角さんって連呼すんだぜ?!」
「…それは」
伊角は絶句する。和谷と塔矢の間のやり取りが、如実に想像できてしまった。
「…でも相談受ける位」
「俺がヤなのっ!!」
和谷が地団駄を踏む。
日頃子供扱いされる事を厭うくせに、行動が伴っていない。
「嫌だって言っても…」
「今度何かされても誘われても言われても無視してっ」
「何でそんなに塔矢を嫌がるんだ?」
まるで、独占欲の強い彼女を説得する様な心持ちである。
塔矢アキラという人物をヒカルを通して知るまでは、確かに敬遠の対象だった。
しかし、何度か顔を合わせて話をすれば、彼は普通の年下の少年であり、むしろ大人しい可愛い所さえあると伊角は思う。
それを和谷に言うと、
「…伊角さん、、」
と、脱力した。
「あいつは危険なんだよっ!」
また肩を揺さぶられる。
「危険って…」
「だーかーらー!とにかく俺が気に入らないの!」
「和谷」
伊角は厳然として言った。
「塔矢は進藤の友人、でもあるんだぞ。俺はお前が何と言っても、塔矢に頼られれば断れない」
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