カガツツ

□Lose Yourself
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 筒井は顔をしかめた。
「またこんな所でタバコ!」
「あ? こんな所だからいーんだろが」
 悠々と、赤い髪の同級生は煙を吐き出した。座りこんでいる校舎の北側には、人通りのない裏門しかない。
「誰も来ねぇし」
「僕が来たじゃない!」
「おまえは、」
 別だ、と言おうとして、特別扱いするのが急に気恥ずかしくなり、
「……なんか用かよ」
加賀は灰を落とした。
「新入生が、部活見て回ってるんだよ。加賀、将棋部は?」
「俺様が最初っから顔見せてやる義理はねぇだろ、ヒヨッコに」
「スッゴい上手い子いるかも知れないじゃないか」
 筒井は煙を大げさに振り払って、校舎の入り口に続くコンクリートの階段に腰をかけた。
「他の奴に見繕わせてから俺様が登場すんだよ」
「……あ、そうか。最初から加賀が部室にいたら、新入生、怖がって逃げちゃ……痛ッ」
 悪気のない予想に、加賀は容赦なく制裁する。
「おまえこそ、こんな所で油売ってていいのかよ」
「え?」
「一人しかいない同好会の癖によ」
「あっ、そうそう、それで、加賀を呼びに来たんだってば!」
「あ? まさか俺に囲碁同好会のフリしろとか言うんじゃ」
 凄む加賀を全く気にせず、筒井はずれるメガネを押し上げた。
「違うよ、あの子……進藤くんが来てるんだ」
「へーそうか」
「そうか、って……会いに来てよ、理科室」
「会ってどうするよ」
「久しぶりだし、打ったり、痛っ」
 筒井が頭を押さえた。
「もうっ、何で叩くの!」
「打たねえって何度言ったらこの鳥頭はっ」
「打たなくてもいいからっ、来てよ!」
「やなこった」
 加賀はコンクリートにすっかり短くなったタバコを押し付ける。すぐにそれを拾い、筒井がポケット灰皿に入れた。慣れたものだ。
「会いたくないの?」
 言い募る筒井に、加賀は苛々する。
「何でいちいち会わせたがんだよ」
「だって、一緒に戦った仲間だし」
「仲間もクソもねえ。同じガッコにいりゃ、その内会うだろ」
「……もう」
 筒井はため息をついて立ち上がり、何かを見つけて膝を折った。
「か、加賀っ、早く逃げて! 先生が来る!」
「……タバコの匂いが漂ってんな。筒井もヤバいんじゃねぇか?」
 ニヤリと笑う加賀に、筒井の血の気が引く。
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