アキヒカ

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「塔矢あ、14日ってお前誕生日だよな」
突然進藤が言った。
驚いた。覚えているなんて思ってなかったから。
「なんか欲しいもん、ある?」
いよいよ驚いた。進藤がそんな気を使うなんて。
「いや…ボクは特には」
「なんか言えよー」
進藤がダダをこねる様に言う。彼のこういう態度にどきどきする自分に気が付いたのは、いつの事だったろうか。
「いいよ、ホントに」
「ぅもー、めんどくさいなあ」
「…」
囲碁バカだからなあオマエ。続く言葉にちょっと傷つく。
他の人に言われたなら、それは真実だと思おう。
でも、進藤にそうは考えられたくない。
「バカとは何だ、バカとは」
「碁の事しか頭にないってことー」
「そんな事はない」
「ウソだー、だってマック来た事ないなんてさ、」
マックとはマクドナルドの略称らしい。つい数十分前に知った。
「信じらんねー。常識ないよな塔矢って」
「君に言われたくない。この間、月極駐車場の事を『げっきょく』と読んだのには、」
「何でそんなハナシすんだよっ」
こんな調子で、いつも彼とは口論になってしまう。
価値観の相違は否めない。
なのに本当に何故こうなったのか。自分なりに整理しようと思うのだけれど、…形にできない。
これが恋というものか。その名称も正しいかどうか分からない。
「何ぼーっとしてんだよ塔矢ぁ。最近おかしいぞオマエ」
そうか。確かにおかしい。
「よっし、決めた!」
「…何を?」
「誕生日、オレが勝手にやるっ」
「え?」
「だからぁー、オマエの。欲しいもんの希望ないなら」
「…」
希望ならあるが。
「進藤、」
「あっ、そういやさあ、」
話が飛ぶ。


とにかく、進藤がボクの誕生日を覚えていたというこの事実だけで、ボクは舞い上がっているらしい。
今朝の、父との碁は最悪だった。父は何も言わなかったけれど。
誕生日で思い出すのは、9月の、進藤の誕生日の事だ。
後から知った彼の誕生日。
最近、お互いの事を話す様になって、その話題になった。
進藤曰く。
「へぇ、塔矢って3ヶ月オレより年下かぁ」
……3ヶ月くらい何だ!
同学年なのだから、何も問題ない!
全く!
…そういう事があったので、ボクは自分で誕生日の事を言うつもりはなかったのだ。



一体進藤は何をボクに贈るつもりだろう。
進藤から貰ったものなら、シャープペン1本、いやシャープペンの芯1本でも、ボクはきっと大切にする。
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