10/09の日記

11:00
生きる速度
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毎日夕方、料理しながらジャニスジョプリンを聴く。

1970年、制作中にジャニスが亡くなり、遺作になってしまったアルバム「Pearl」を聴く。
この3曲目のバラードを聴くとき、なんともいえない淋しい気持ちになる。

ジャニスジョプリンは極度のアル中、ヘロイン中毒、そしておそらく恋愛依存症。

ヘロインの過剰摂取のため27歳でこの世を去った。

婚約する予定だった男に恋人がいたことを知ったあとだったから、自殺だったという説もある。

叫ぶように恋とセックスの歌を歌いつづけたジャニス。
ミュージシャンとしては歴史に残るほど評価されたけど、本人は外見内面ともにコンプレックスだらけだったらしい。

あの派手なファッションはコンプレックスのカモフラージュだったのかもしれない。

わたしが好きな女性ミュージシャン、芸術家はみんな短命。

ジャニスジョプリン、ビリーホリデー、鈴木いづみ、朱里エイコ、フリーダカーロ。

濃く、速く、生きた女性。

去年亡くなった友達もそうだった。

濃い人だった。
短い生涯だったけど、それが彼女の寿命だったと、一年経って思える。

そんなことを思いながら夕方、ジャニスジョプリンを聴くと、涙がこぼれそうになる。

そこへ彼が帰ってくる。
「何を聴いてるの?」
と聞いたからジャニスジョプリンだと答えると
「やっぱり。声でわかった」
と答える。
「27歳で死んだんよ」
と言うと
「いいじゃん。27歳だろうと短かろうと、精一杯生きて、たくさん音楽残したんだから。」

そういう彼は去年亡くなった友達の弟。
きっと、そんなふうに自分の姉のことも想っているんだと思う。

速く生きた。
たくさんの詩と絵を残して。
たくさんの写真、小学生の時に使っていたクレヨンや交換日記も残して。

まるで自分の短い寿命を知ったみたいに、たくさんのものを捨てずに残して。

彼は正反対。
昔のものをすべて捨てながら生きてきた。
幼い頃の写真も残っていない。
過去を捨てたわけでなく、過去やものに対して執着がないらしい。「今」だけが一番大切だという。

わたしは急に不安になる。

この人も速く生きてしまうんじゃないかと。

鈴木いづみが残した言葉を思い出す。
「速度が問題なのだ。人間のエネルギーには絶対量がある。使いきってしまえば、あとは死ぬしかない」

今を大事にして生きることは素晴らしい。

だけど、もし本当にエネルギーに絶対量があって、先を考えずにすべて「今」に使いきってしまったら…

そんなことをふと考えてしまったりする。

だけど、すぐに思い直す。
だからどうした。

人はいつ死ぬかわからない。
元気でも交通事故や事件に巻き込まれてある日突然亡くなることだってある。

確率は低くてもゼロではない。いいではないか、精一杯、今を生きれば。

長く一緒にいたいと思うのは願いでしかなくて、その願いが叶わないことだってある。

そんなことより、今、一緒にいられることを喜べばいいじゃないか。

生きる速度が違ってもいい。
一緒にいても、別々の人間なんだから、それを勝手に哀しむのはこちらの都合だ。

今、一緒にいられることを、ただ喜べばいい。

そんなふうに思いながら、速く生きたジャニスジョプリンの歌声を聴く。

ラジカセから叫ぶようなジャニスの声が聴こえる。
淋しくてしかたなかったんだろう。
魂ごと抱きしめてやりたいと思う。
大きなお世話だろうけどそう思う。

同情でも共感でもなく、おなじ恋する女として愛おしく思う。わたしは精一杯生きてる?
そうね、まだまだ長生きしたいから、エネルギー残しておきましょう。

だけど、今日死んでもいいように、やはり今を大切にしたい。

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