02/28の日記

19:02
果実と箱
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 もう何年この箱に入れ続けただろうか。
 働き疲れて残る希望はこの箱だけだ。
 働いた分、もらったこの果実の何割かを毎月この箱に入れ続けてきた。
 果実をこの箱に入れるのは国民の義務だ。というより、将来歳をとって働けなくなった時、入れた分だけ果実が手元に戻ってるらしい。
 自分で貯めるのはなかなか難しいから、こうして義務にしてもらって、遠くで預かってもらえると確かに安心だ。
 この果実は万能の果実だ。
 あらゆる食べ物にもなるし、家にもなる。本やテレビなど何にだって姿を変えることができる魔法の果実だ。
 しかし、これを手に入れるには働かなくちゃいけない。
 汗水たらしてやっともらえる果実だ。そしてそれを全部持っていると使いきってしまうから、この箱に入れるのだ。
 この箱は町中の色んなところに設置してある。
 地面にぴっちりくっついていて、果実を入れる小さな穴をのぞくと、深く地面よりも深く穴があいている。
真っ暗で何も見えないが、果実はその箱の底に溜まっているらしかった。
 きっとこの底にたくさんの果実が溜まっているんだろう。
 ふと、思った。
 わたしが入れた果実とほかの人が入れた果実はどうやって別々に振り分けられてるんだろうか。
 そこで、役所に行き聞いてみた。
 すると、「それは、穴の下から、あなたの顔を確認して記録しているのです」
そう答えられた。
「誰かがあの箱の底にいるってことですか?誰なんですか?その人が適当にしていたらどうするんですか?」
「ええ。でも、そんなことはありませんよ。何人もいますから。」
「機械で振り分けてるわけじゃないんですか?」
「ええ。そのような機械はあの穴には大きすぎて入りません」
不安がよぎった。
 どうしよう。他の人と一緒にされてたら、あまり果実を入れてない人と一緒にされて分けられることにはならないんだろうか?
 でも、まさか。役所はそんなミスはしないはずだ。

 しかし、不安は現実になった。
「ごめんなさい!記録してた紙、間違えて捨てちゃいました!!他のも探す時ぐしゃぐしゃになっちゃいました!!」
テレビの中で深く深く謝るお偉いさん。
 その上こんなうわさが流れてきた。
 実は箱の下には同じように町があってたくさんの人が住んでて、その人たちは働かずに、わたしたちが入れる果実を好きなように使って贅沢に暮らしていると。

 箱に入れた果実が戻ってくるというのは実は信憑性のない都市伝説だといううわさまで流れてきた。

 それでもわたしは今月も箱に果実を入れ続けます。
もう、信じるしかないのだから。


 働き疲れて残る希望はこの箱だけだから。 

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