02/01の日記

18:59
赤い
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 僕は2週間ほど盲腸で入院していた。退院してしばらくして、ある朝、僕がいつものように起きて会社へ行こうと外へ出ると、世の中がおかしなことになっていた。
 ところどころ、建物や人、乗り物やポスターなんかが赤く染まっていたのだ。
ちょうどペンキでベッタリと塗りたくったように、塗られた部分は下の色や模様がわからなくなるほど真っ赤だった。
 びっくりして足を止め、きょろきょろと辺りを見回してみた。
全てではないが、ほとんどの人や建物が赤い。よく見ると半分だけ赤いもの、わずかだけ、例えば人などは足だけ赤い人もいた。
みんな何も変わった風でなく素知らぬ顔をして歩いている。
どうやらこの赤い色が見えているのは僕だけらしかったので、僕は動揺を必死に隠しつつも会社へ向かった。
 まさかとは思ったが、会社も赤く染まっていた。
しかも、ひどいことに建物すべて、会社仲間、上司、ほとんどが真っ赤に染まっている。
人が真っ赤に染まっているものだから、誰が誰かもわからない。
間違えて名前を呼んだりすると怒られたり笑われたりした。
 一番仲のいい同僚をようやく見分けてこっそり聞いてみた。
「なあ、みんななんで赤く染まってるんだ?」
すると同僚はすごく驚いた顔をして、そのあと恥かしそうに怒って、
「お前だってまだ赤いじゃねえか!」と言い返してきた。
驚いて鏡をのぞいてみたが、僕の顔は赤くはなかった。
どういうことだ、人には僕の姿も赤く見えるのか?
どうしてだろう?しかも、全身真っ赤な人もいれば、部分的に真っ赤な人もいるのはなんだ?この違いはなんだ??
そうこう考え込んでいるうちに朝礼が始まった。
毎朝、上司が僕らを集めてウダウダとビジネス論、人生論を語るのだ。
ひどく太っていて、汗っかきで無愛想で見栄っ張りの嫌われ者上司だ。全身真っ赤な上司は太った赤鬼のように見える。
「みんな、今朝は人の本音と建前について話そう」
そう言って話し始めたとたん、恐ろしいことが起こった。
僕の目の前に立っていたはずの上司が一瞬にして真っ赤な液体になり、床に飛び散り消えた。
僕は悲鳴を上げておののいた。しかし、周りの同僚は少しも驚いた様子はない。
「ほんと、馬鹿だこいつ。自殺行為だな。」
一体どういうことなんだ!!
「どういうことだ!?教えてくれよ!!なんで赤い液体になってしまったんだ!??」
すると、僕がひそかに片思いしている同僚の女の子が言った。(ちなみに彼女はちょうど顔から下だけが真っ赤に染まっていた。かわいい顔が真っ赤に染まってなくてよかった)
「知らないの?!2週間前、赤い手紙が入った赤い封筒が家のポストに入ってたの。嘘ついてる人、偽りのあるものは赤く染まって見えるように反政府テロリストがウイルスを撒いたのよ。度がひどいと液体になってしまうって聞いてたけど、案の定・・・この人嘘ばっかりだから(笑)あ、そうか。あなた入院してたから知らなかったのね。」
「なんだって!!?じゃあ建物が赤いのはどういうこと!?あと、君は首から下しか赤くないけど、どうしてだい?!」
「建物も、偽装工事っていうのがあるでしょ?それからわたし・・・顔は赤くないの?!嬉しい♪これはまだどういうことかわからないのよ。手紙にも書いてなかった。驚いた?!でも、わたし、これでいいと思ったの。嘘が見抜けるってことでしょ?でも、ほとんどが嘘なの。だから安心しちゃった。この世に嘘がないことなんてないのよ。
 テレビとか新聞とか見てごらんなさい。真っ赤っかよ(笑)政治家なんて廃業よ♪これからはいろんな情報に惑わされずに、感じるままに生きていけるわ♪」
気が狂いそうだ。もうわけがわからない。でも、確かに彼女の言い分もわからなくもない。
みんなが嘘つきなら恥かしくない。怖くない。「これは本当だよ」ってあせって嘘をつかなくてもいいんだ。
「でも、気をつけてね。嘘をついてるのにそれを無視して嘘をつき続けると、上司のように液体になっちゃうらしいから。」
「わかったよ。気をつける。」
「ところで、あなたわたしの手帳知らない?2週間前から探してるんだけど・・・デスクの上に忘れて帰ったみたいなんだけどないのよ〜。あなたわたしの隣だし、知ってるかなって思って」
やばい。
どうしよう・・・
実は僕は盲腸で病院に運ばれる前の夜、会社で残業してて、デスクにお置きっぱなしにしてた彼女の手帳をこっそり見てしまったんだ。
中には細かくかわいい字で日記が書いてあったり、何枚も写真が入ってたり、予定も細かく書いてあるし、なによりとても可愛らしくて、彼女自身みたいで、つい欲しくなり持って帰ってしまった入院中、ひそかにその手帳をながめては、彼女のことを想い、ムラムラしていた。
嘘・・・ついたらやばいよな?
どうしよう・・・
いや、でも、そんなに大きな嘘じゃないでしょ?!知らないって一言言うだけなら・・・
「いや、知らないよ」
そう言ったとたん、僕は真っ赤な液体になった。




「馬鹿ね、バレる嘘をついたらダメなのに。嘘は上手につかなきゃ♪」
彼女は微笑んで立ち去って行った。

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