笑う女の子

□海辺の思い出
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些細な事が原因で母とけんかをして、わたしは家を出た。
家に戻ろうとは思わなかった。
わたしはもう成人して仕事もしてるから、もう実家を出るべきなのかもしれない。
もう自立しなきゃ。
部屋を見つけて一人暮らしをしよう。

そう思って不動産めぐりをしてたら、携帯に着信があった。
それは、昔別れた恋人からだった。
未練はなかったけど、久し振りだから、会って話す事になった。

彼は変わらず優しい笑顔で、わたしが好きだった彼のままの姿だった。

よく一緒に行った海辺へ行き、近況や思い出を語り合った。
私が飼っている犬のシロを連れて、よく3人でフリスビーして遊んだなぁ…


「俺はまだお前が好きだ。ずっとそばにいたい。」
彼は突然わたしを抱き締めて言った。
強く、強く息がつまるくらい。


「そんなの無理よ。もう終わったのよ」
わたしがそうすぐに答えると、彼はとても悲しそうな顔をしてわたしを見つめつづけた。


それは懐かしい目だった。
あの頃のままの、わたしを愛する目をしていた。


しかし、ひとつだけ、以前の彼と変わったところがあった。

彼はいつの間にか裸足になっていて、砂が足全体にこびりついている。
彼は海は好きだったけど、泳ぐ時以外は海辺で裸足になるのを極端に嫌う人だった。
「足に砂がついてベタベタするとイライラする」
とよく言っていた。
それなのに、今は少しも嫌がってない。
わざわざ靴を脱ぐなんて、海辺で裸足になるのが好きだとしか考えられない。


そのことに疑問を感じた時、私は思い出した。



海辺で砂まみれになってる足…


それを喜んではしゃいでる
あの子…


わたしは彼を置きっぱなしにして急いで家に帰った



居間で母が涙を流して座っている

動かなくなったシロの横で


わたしはほんの少しだけ
もう少しだけは家にいるべきだった


「ごめんね」
わたしはシロを抱き締めて泣いた

彼が私を抱き締めたように
強く、強く息がつまるくらい。



かすかに海の潮のにおいがした
 

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