戦国時代2

□たけだ家・斬る
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 板垣邸へ乗り込んだとき、板垣は、蝋燭の灯火で書物をペラペラとめくっていた。
 信繁は、勢いよく唐紙を開け放って、中へ入った。
板垣の驚く顔がわざとらしく思えた。



「私はおぬしが嫌いだ!兄上に、父追放の責を負わせた上に、弟殺しの責も負わせようとした」

「知っておいででしたか」

「何をだ?私の暗殺に失敗したことか?」
 しれっとして言う。
 本当は、恨み言も罵倒することばも頭を駆け巡っていた。
 板垣が表情を変えないのは、さすが戦場で鬼と呼ばれているだけある。


「……」


「……」



「−それで、何をお望みですかな?信繁殿」
 腹を切れと申すのならその覚悟があるといった様子だ。


「開き直るな。私が憎む本当の理由がわからないくせに。−だが、お主は兄上にとってなくてはならぬ者」

 殺したからといって、憎しみが消えるわけではない。
 信繁の瞳が鈍く光る。
 いつもの穏やかで暖かな眼差しはなかった。かつて見せたことのない鋭い瞳。信虎公と正反対の慈悲深いこの少年を怒らせたのは、板垣が初めてかもしれない。


「……」

「−私を信用できぬか?」
「いえ、と言いたいところですが、信虎公は、貴方様を跡継ぎにとおっしゃられていたのを今回のようなこととなり、面白くなく思っておいでかと」

 と、その時、板垣の前に座っていた信繁が立ち上がり、帯を解いた。暗がりに布ずれの音が響く。そして、襦袢だけの姿になり、再び座った。



「お主、私と交われるか?」
 下から覗き込むようにする。
 兄弟だけあって、晴信と似たところもあるが、まだあどけなさを残す信繁は、女親の血が濃く現れ、愛らしい顔立ちをしている。

 瞼を縁取る長い睫毛は、瞬きするたびに揺れ、伏せ目がちになると、色香を漂わせていた。
 緩んだ衿元からのぞく白い胸は成長途中であるが引き締まり、均衡がとれていた。
 すべて曝して抱けるかどうか品定めさせる気か。


「男を抱けるかときかれれば抱けるが、貴方様はお屋形様の弟です」

「だから、謀反者となってもおかしくない」
「信繁殿!」
 板垣は叫んだ。


「危険分子は早めに取り除いたほうがよいと考えたのだろう?お屋形様は甘いと。だから抱けといってるんだ」
 信繁は、板垣の頬を両手で包み込んで唇を重ねた。


「年取ったな、板垣」
 くすりと笑う。

 信虎に冷たくされる晴信をずっと父のように支えてきた。


「信繁殿も大きうなられました。小さい頃はよく晴信様を追いかけておいででしたが」
 それは皮肉のつもりか。

「今も追いかけておる。父上が私を贔屓するようになってからも変わらぬ愛情をくれた。それは、お主がいたからだろうな」

 中々触ってこない板垣に焦れて、袴の紐に手をかけた。



「晴信様のこと好きなのですか?こういうことをなさりたいとお考えなのでしょうか?」
 板垣のモノを口に含んだ時言われ、びくりとした。


「……」
 無視して奉仕に専念すると、深く咥えすぎて喉に当たり苦しくなる。

「無言は肯定にとられますぞ。−もう、放しなされ、貴方様がこんなことなさるものじゃない」

 濡れた瞳で見られ、理性を失いそうになったため、頭を押しはがそうとした。もし本当なら侮辱したことになる。



「まだ済んでない」
 口を放し、不服そうにする信繁の目の端に溜まっていた涙が頬を伝って、畳にしみを作った。


「もう十分貴方様の気持ちがわかりました」
 涙の粒を指でからめとる。


「何がわかったというのだ?お主ならこんな行為に出る前に止められたはずだ。今更疚しいと思ったか?それとも私が本気じゃないとでも?」



 そう、板垣はまさか信繁が自分の体を差し出してくるなんて思ってもみなかった。


「私はまだ赦してない」

 板垣は哀れむような目で信繁を見た。
 なまじ年が近いというだけで排斥しようとしたのだ。信繁の人となりを見もしなかったことに後悔した。信虎公が信繁を跡継ぎにといったのは、従順なだけでなく、賢く、気高く美しい、兄と同じく国を背負う技量を持っていたからではないだろうか。



「失礼仕る」
 板垣は、本質を知りたくなって、覆いかぶさるように唇を重ね、押し倒した。



「ん、んん…っ、いた…がき」


 帯を解き、衿を左右に広げた。まだ成長途中の細い体つきだ。薄い肩に手をかけ、首筋に唇を落とし、鎖骨をなぞって、胸へと下りていく。


「あ……」


 赤い突起を口に含み、背中に回した手で愛撫すると、ビクリと撥ね、キュッと目を閉じた。



「……。もしや、こういうことは、初めてですか?」

「……」

 信繁は羞恥心に顔を朱に染める。

「あ、さ、誘っておいてすまぬ」

 慣れぬ行為に体をこわばらせていた。


「じゃあ、できるだけ優しくいたします」
 板垣は、晴信に見せるような慈愛に満ちた表情をする。
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