戦国時代

□たけだ家・信友
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「おーい、信繁」
 秋山は、彼の部屋の前で声をかけると共に障子を開けた。
−と、信じられない光景に慌てて近寄る。
「ちょっと、な、何やってんだよ!はやまるなぁ!」
 短刀を腹の前に突きつけ、今まさに腹を切ろうとしているところであった。
 秋山は手を掴み、短刀を放させる。

「一体、何があったんだ?」
「信友に見つかったか・・・」
 落ち着かせるため、肩を押さえつけると、信繁は自嘲気味に笑った。

「・・・」
「信繁?」
 俯いて黙ってしまった信繁の顔を覗き込む。

「・・・」

「ま、いいや。源助がな・・」「源助もお屋形様に何か言われたのか!?」
 ガバッと、顔を上げ、激しく肩を掴んで叫んだ。

「いや。−なんだ?源助が原因なのか?」
 頑固者の信繁が黙ってしまったら、仕方がない。本来の目的の源助を戦いに出せるように協力してもらおうと思っただけだ。

「お屋形様がな、源助と念者の契りを交わした仲なのかと・・・」
 信繁は重い口を開いた。
「私が、お屋形様の寵童に手を出す不忠者だと疑われたんだぞ。身の潔白を証明するために切腹しなくてはならないじゃないか」
 首を横にブルッと振って、秋山の肩口に額を付けた。
 秋山はふぅーと、ため息をついた。
 お屋形様しか見えてないのに分かっちゃいない。

「あのなぁ、お前にしなれて一番悲しむのはお屋形様だぞ。源助の事だって怒っていったわけじゃないだろ?血を分けた兄弟なんだから話せばわかるって」
 そういって、ポンポンと、信繁の頭を軽く叩いた。実の兄をお屋形様と呼ぶことで距離を置いてしまっているのは信繁なのだ。
 当のお屋形様は兄と呼ばれたがっているのに。
「だけど、どうして、疑われたんだろ?お屋形様は、源助と話すのさえ嫌なのだろうか?」
 それをきいて、ガクリと肩を落とした。
(こいつ、お屋形様のことも分かっちゃいないが、自分のこともわかちゃいない)

「源助はお前にべったりだろ?お前も源助にはめちゃくちゃ甘いし、自覚ないか?」

「そうか?うーん・・・。確かにお屋形様の助けになるだろうから大事に思っているが」
 小首をかしげる。
 そうだ、この男、お屋形様に反対するものには厳しいが、味方には滅法弱いのだ。
「源助は年下だし、元々武士じゃないからな。色々困ることもあるだろ?別に甘やかしてなんぞおらぬぞ」
(自覚なさ過ぎ)

「もう、それはいいや・・・。ちと、相談なんだが・・・」
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