戦国時代

□たけだ家・出逢い
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厩の近くに信繁の姿を見つけると、工藤は、何気なく近寄った。

「信繁殿ー、どこか、出かけられるんですかー?」
 声をかけると顔をこっちに向けた。

「いや、馬がないんだ」
「は? 盗まれたんですか?」
「お屋形様の姿もないんだ」
 どうやら、お屋形様が乗っていったらしい。
「お屋形様とて、遠乗りなさるでしょう?」
 深く考えずそう言うと、、信繁は難しい表情をしていた。


「兄上は心配性なんだよ」
「うわっ!」
 後ろから急に声がし、驚いて跳びあがった。

「申し訳ない、驚かせたか。ええと、工藤…昌豊殿でしたっけ。間違えていたらすまぬ」

「貴殿は?」
 体は小柄だが、信繁に似ている。
(いや信繁殿というかお屋形様に似ているかな?秋山殿にも似ているな)

「私の同母弟の信廉だ」
 信繁が言った。

「兄上は、すぐに心配なさる。その分じゃ長生きできませぬよ」
 信廉は声を出して笑うが、信繁は苦笑を漏らしていた。
「だけど、もし、お屋形様の身になにかあったら…」
「大丈夫ですよ。−だから、兄上は心配性なんだって。そんなに、晴信兄者の側にいないと不安なら、いつも付きまとっていたらどうです?」
 陽だまりのような笑みを浮かべた。

「もう、子供じゃないんだから、そういうわけにもいかないだろう?」
 淋しそうに笑う。

「だったら、兄者が黙って出かけたとて、慌てないでください」
「別に慌ててなぞしておらぬ」

「ま、いいけど。−馬の世話をしているものの話では、源助を供にしているようですぞ」
「源助を供に付けたからと言って、安心できるわけないだろ。大体、お屋形様が源助をかばって怪我しそうじゃないか」
 家臣を愛するお屋形様は、とくに先ごろ小姓にした春日源助を寵愛していた。
「あはは、違いない」
 信廉は本当におかしそうに笑う。穏やかな信繁とは違和感があった。
(だから、秋山殿の方に似てると思ったのか?)
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