戦国時代4
□譲り葉
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「―ご無事でしたから良かったものの、あまり無茶をいたしませぬな」
合戦が終わり、昌豊は返り血を浴びた信繁を窘める。
「……。山本殿を殴られたそうだな」
渋面の昌豊へ微笑みかけた。
「どうしてそれを?」
今回の軍議の後、信繁が断れぬのをわかっていて何故名指ししたのかと問い詰め、その答えが腹正しかったため、殴ったのだ。
「告げ口ではござらぬよ。顔が腫れていたのを見て、問い詰めたのは私だ。あやつも渋っておったので、無理やりな」
だから責めるなと。
「典厩殿、拙者は……、貴方を大事に思っておりまする」
「……」
何度も口に出してきた。
「大事な者を危険にさらしたくないのは当然です」
「あぁ…」
信繁はうなずく。彼も同じ想いを抱く者がいる。
「典厩殿…」
信繁を抱きしめ、唇に唇を重ねた。
「は、放してくれっ……」
必死に身じろぎする。
「好きです」
「駄目、だ…。貴殿は…」
「抵抗するのは拙者が嫌いだからですか?それとも……?」
「私を抱いたら後悔する…。嫌いになる…」
信繁は悲しそうな目で昌豊を見つめた。
「それは貴方が拙者に好かれたいととっていいのですか?」
耳元で囁く。
「―私は、とっくに応えてる。昌豊殿のこと、好きで、でも苦しくて、愛しさが満ちると水の中のように息ができなくなる」
顔を近づけ唇に唇を重ねる。
「典厩殿…、拙者は貴方のすべてを愛します」
信繁は左右に首を振った。
「怖い…。私はどうしたらいい?」
「拙者に身を任せてください」
信繁は応えるように目を閉じた。
手を背中に廻すと、頷かれ、甲冑の紐を解いた。
「あ、身体を清めてくる」
今更返り血と埃で汚れてることに気づき、昌豊から離れた。
「いい。拙者が清めてあげます」
「でも、すっごく汚れてる」
困ったような表情をするのに、さらに熱くなる。
「大丈夫です」
腕を掴んで強い力で引き寄せた。
唇を重ね、舌を差し入れて深く口づける。
「ん…」
苦しそうに眉間に皺を寄せるのを見て取り、ようやく口を開放した。
舌を唾液の糸が繋いでいた。
昌豊は血で汚れた陣羽織を地面に敷き、その上に優しく信繁を組み敷いた。
「ん…、は、ぁあ…」
肩口に顔を埋め、汗と血と埃の臭いにすら欲情して、耳の後ろから鎖骨にかけて唇でなぞっていく。
「昌豊殿…」
不安そうに名を呼んで首の後ろへ廻した腕で抱きしめてきた。
「大丈夫、怖くないですから」
「うん…」
頬を掌で包み込み、優しく撫でると、安心したように頷いた。
「好きです。典厩殿」
そう告白すると、信繁は目を閉じ、躊躇うように、
「私も」
と、返した。