戦国時代4

□水蓮
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「いつまでここにいるつもりですか?」
 信繁は疲れた声で帰ろうとしない信有に言った。

「そんなつれないことを申すな」
 信有は何がおかしいのか笑みを浮かべた。

「貴方がいたのでは身体をふけませぬ」
 億劫そうに水の張られた桶を引き寄せ、浸した手ぬぐいを絞った。

「わしがやってろうか?」

「お断りします」
 当然のごとく即答だった。信有が親切心からじゃないのが分かってるのだ。

「本当は湯殿を使いたいんですけど」
 信繁は出て行こうとしない信有の一物を手ぬぐいで清めた。


「造作をかける」
「いつまでもいられては迷惑なので」
 初めて抱いたときとは違って物言いに遠慮がなくなっている。それも魅惑的で信有は笑みを浮かべるのだ。体を繋げると色々知ることができる。だが、男より女の情は恐ろしい。あの諏訪頼重の女、心は屈しまい。

「秋山信任の倅は、お主の事なんとも思わぬのかな?」
 信有は立ち上がり、着物の合わせを直した。

「信友ですか?あれはいつだって私の気持ちを汲んでくれまする」
 誰だってお屋形様の弟には遠慮がちになる。しかし、信友には時々しかられる。

「わかっていて見ぬふりか。ま、よいがな」
 信有にとってはそのほうが都合いい。
 満足したとばかりに部屋を出て行った。

「眠いな…。身体もガタガタだぁ。―ふん、何もかも見通せてるはずなのにやはり貴方は本当のことはおっしゃらない…」
 滑稽で自らを嘲笑った。

(今頃、お屋形様も…)

「おなごを殺すことなどたやすいのになぁ…」
 しかし、それをやったらお屋形様が悲しむ。

「疲れた…」
 うつ伏せになりへたり込む。そのまま、眠りに陥った−。








−余話−




 お屋形様と諏訪の姫の祝言のあと、秋山信友は原邸に来ていた。
 もてなし(?)に出された麩饅頭を白湯で流し込んだ。

「めでたい席の帰りだというのに、何をそんなふてくされた顔をしてるんだ?」
 彦十郎がからかい半分に声をかけてくる。

「そりゃ、おとな(重臣)達の諏訪憎しの気持ちはわかるが、お屋形様が決めたことだ仕方なかろう」
 信友も譜代の家臣ゆえ、不機嫌な理由はそうだと思ったのだ。しかし、信友の考えてることは違うところにある。

「お屋形様のことじゃない。俺が気にかかってるのは信繁のことだ」
 それを聞いて彦十郎もすぐ察した。伊達に付き合いは長くない。

「諏訪の姫を闇に葬るとでも言うのか?―そういえば、以前、諏訪の間諜が紛れ込んでるとお屋形様に進言なさってたな」
 その後のことは彦十郎は知らない。

「あいつがお屋形様を悲しませるようなことはしない。冷静ならな。−そうだな…。あの方を誘ったのはそういうことか…。俺にはできないからな」
 信友は一人納得した。

「誰だ、そのあのお方って?」
 彦十郎は困惑し、問いただしてくる。

「お主に関係ない。あのやろう、俺の目の前で…」
 今更ながら、怒りがこみ上げてきて、こぶしを振るわせた。

「おいおい、何があったか知らないが、話す気ないならここへくるな!事情を襲えろぉ!」
 だんだんと腹立ってきた。子供の頃からの付き合いだが、心から気を許す中ではない。
中々内に抱えてるものを話したがらない。それが、彦十郎の中では外様だからと理由付けていた。それでいて、譜代の者とも打ち明けてる様子はない。不思議と、信繁にだけはすべてさらけ出してるようだが。

「これは、信繁の名誉を傷つける」

「それは、お主の偏見だろ。信繁殿はあるいは…。いや信繁殿はあの頃から変わらぬ。そう思う」
 それを聞いて信友は大きく目を見開いた。

「そうだな。変わらぬな…」
 ほのかに微笑んだ。もしかしたら自分が見落としていたところを見てるのかもしれない。






諏訪の姫が側室になるくだりは何度書いてもあきませぬ。たけだ家の人物設定は朱華の独断なのですが、小山田信有どのは、大河ドラマの影響が強いです。やらしそうなところがいい!!本当は、領民を愛し、すばらしい統治者なのですよ。
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