戦国時代4
□青柳
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「―光盛兄者ぁ、亀の亀吉が脱走しましたぁ」
まだ小さな弟がポテポテ歩きながらやってきた。
「雨で池の水が増えたのだな。今行く。―では、平三郎殿ごゆっくり」
ニコリと笑みを向けると早々と行ってしまう。。
「騒々しくてすまぬ」
無表情で頭を下げられた。
「いえ、うちも小さい弟が多いので、もっと騒がしいですよ」
重い空気が流れる中、平三郎は無理に微笑おうとした。
いつもと勝手が違うのは、宗四郎がいないせいかと思い、しかし、彼がいないだけでこんなにも気まずいものかと打ち消した。
「怯えるな」
沈黙を破ったのは孫次郎だった。
「別に私は怯えてなど…」
しかし、孫次郎を怖く思ったのは事実だ。
「そうか?なら、座って甘酒を飲め。身体が温まる」
囲炉裏で燗をしていたのは甘酒だったのかと今更ながらに気がいった。
「はい。ありがとうございます」
湯飲みに注がれ、手渡された。
「―昌胤殿は優しくしてくれるか?」
「え?」
言葉の意味を解せないでいると、手首をつかまれ、湯飲みを落とした。飲みかけの白い液体が床を汚す。
すると、視界が動いて天井が真上となった。
背中が床に当たり押し倒されたのがわかった。
「孫次郎殿?」
不安そうに名を呼ぶと、孫次郎が唇を押し付けてきた。
「んん…っ!?」
噛み付くように口付けられ、逃れようともがいた。
(どうして……?)
突然の孫次郎の行動にわからなくなった。
「ふぁ…、ん…っ‥」
息苦しさに首を横に振るが、額を押さえつけられ、舌を絡めてきた。
「う…っ…」
口内を犯され、無意識に歯を噛み合わそうとするが、柔らかな感触にあっと、思った。
着物の袷から滑り込まれた手に胸をさすられ、孫次郎が考えてることがわからなくとも、この先は何としてでもやめさせたかった。
「ま、孫次郎殿!待って…、ちゃんとワケを…」
手首を掴み剥がそうとするが、力を込めると、汗で滑ってできなかった。
「目障りなんだ。お主なんか、傷つけばいい。無垢なお主に腹が立つ」
そう言って、、衿を左右に割って乳首に噛み付いた。
「あっ…」
平三郎の身体がビクリと跳ねる。
「っ…、私の…せい?」
必死に話を聞こうとする。
「……」
肩口を噛み、欝血になるまで吸った。
場所を少し変え、同じようにすると牡丹の花のようになった。色の白い平三郎の肌に目立った。
「孫次郎…殿…っ」
平三郎が震える声で必死に訴えるが、孫次郎の頭は常に平静を保っており、聞き入れなかった。
静かに怒ってる―初めから感じていた違和感はそれだった。
(そうか、わたしのせいか…)
孫次郎に身を任せることで、怒りが鎮まるかわからないが、平三郎は身体の力を抜いた。
「―申し訳ありません」
赦されないと思うが謝罪の言葉を口にする。
まっすぐ孫次郎の目を見つめ、媚びるでも自分を弱く見せるのでもなく。源氏の血がそうさせるのか、綺麗な強い光を放っていた。
「申し訳ありません、孫次郎殿」
無意識に立てた爪がガリッと床を傷つける。
孫次郎がその手をそっと掴んだ。そして―
「悪かった」
目を閉じ、呟いた。
一瞬、泣いてるのかと思ったが違った。
「私が悪いのでしょう?」
平三郎はわびの言葉が欲しいわけではない。理由が知りたかった。