真田家

□月と盃
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「今日は望月かぁ」
 真田信綱は、空を見上げ、独りごちた。
 今日、弟の源五郎が、躑躅ヶ崎の館へと発った。
 源五郎を甲斐へやることで、父は上田の領土を得た。
 信綱は、クイッと手に持っていた猪口の酒を飲み干した。それをおろすと、横から酒を注がれた。

「あにうえ〜、源五郎がいなくなって寂しいのでしょう?私も寂しいですよ。独りで飲んだりしないで私も誘ってくださいよぉ」
 すぐ下の弟の徳次郎が片手に瓶子を持ち背中に寄りかかってきた。
 徳次郎も独りで酒を飲んでいたらしく、頬を上気させ、口調がおかしかった。
 信綱は、注がれた酒を一気に煽る。
「あの子はきっと、お屋形様の元で多くのことを学び、大きくなるだろうな。でも、まだ八つだ。寂しいときや辛いときもあるだろうと思うと、不憫でな」
 弟がきいているかわからないが、誰かに言いたくて独りごちた。注がれた酒に映った月が手の中で揺れている。

「−ホントに、かわいそうで、かわいそうで。蝶よ花よと育てた弟がいじめられでもしたらと思うと、あぁ、やっぱり父上にもっと反対しておくべきでした」
「きっと、強い男になるさ」
 嘆いている徳次郎の肩を抱き寄せると、
「あにうえ〜」
 首の後ろに手を回し、抱きついてきた。
 信綱は、自分とは違う色素の薄い髪を撫でる。柔らかく細い毛は、指に絡めるとするりと逃げられた。

「あの月は、我々のことも源五郎のことも見下ろせるのだな」
 頬を撫で、顎を持ち上げて顔を近づけていき、濡れた紅い唇に唇を重ねた。
 酒の臭いが鼻につく。

「ん…」

 徳次郎の身体がブルッと震えた。

「寒いか?」
 たずねると首を横に振った。

「源五郎はぁ…」
 何か言いかけてずるずると崩れ落ちる。
「徳次郎?」
 問いかけると、膝を枕にして寝息が聞こえてきた。
 信綱はクスッと笑った。

 前髪を掻き分けてやり、他にも弟がいるのに、この弟のことが一番かわいくてしかたない。また、こんな平和なときを奪われたくないと思った。









うちの信綱と昌輝はできてます。

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