戦国時代2

□たけだ家・夕映え
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平三郎が邸へ帰る途中、夕暮れ刻の薄い闇の中、抱き合う二人を見た。秋山信友とその胸に顔をうずくめているが、信繁だとわかった。
 信繁は肩を小刻みに震わせており、すすり泣いているようだった。
 その頭に手を置き、目を細めて見下ろしている信友は、信繁を愛おしんでいるように見えた。


(二人が念者だという噂はやっぱり本当だったんだ)

 信繁が本当に信友に気を許しているのがわかる。




       ※



 信繁邸の近くまで来た平三郎は、彼の邸に信繁と小山田出羽守信有が一緒に入っていくのを見た。信有が信繁に寄り添って、親密そうな感じだった。





「−おーい、平三郎、昌胤にふられたってぇ?俺でよければ念兄になるぞ」
 その声にはっとする。

「秋山さん…。別にふられたわけじゃないですよ。心は繋がってます。―それより、貴方こそ、念者をほっといていいんですか?」
 昌胤には、念者になる代わりに組紐を分け与えられた。

「念者?」
「出羽守殿と邸へ入っていかれましたよ」
 信繁の邸を指差す。
 信友と信繁が念者だと信じ込んでる平三郎は、きょとんとしている信友に冷たく言った。


「ああ、そういう時もあるさぁね」
 余裕の信友にむっとした。もし自分なら邸に乗り込んでいくところだ。


「そんなんじゃ典厩殿に飽きられますよ」
 信繁は平三郎から見ても綺麗だと思う。だけど、信友は美形だが、お屋形様そっくりな顔なのだ。いくらなんでも兄と同じ顔を好きになるとは思えないから信友の方が信繁を強く想ってると想像している。

「信繁は俺から離れないさ」
 自信過剰な信友にあきれた。

「マ、せいぜい気配りも忘れずに」
「そうは言っても、俺と信繁は念者じゃないんでな」


(だったら、今までの余韻はなんだったんだ?)
 さっさと立ち去ろうとした平三郎は疑わしげな眼差しを向けた。

「念者じゃないけど、大事なのには変わりない。向こうも同じだ。だから、離れないのさ」

「……」

(典厩殿のこと信用してんだなぁ)
 これでは、自分が昌胤と心が通じていると思ってるのはままごとのようだ。

 大分話し込んでしまったと気づき、信友の前から立ち去る。




 歩きながらふと、あの時、信繁が泣いていた理由はなんだったんだろうと思った。

(まさか、別れ話でもあるまい?)
 だから、念者じゃないなどといってるのでは…。しかし、そんなことで二人の信頼関係が崩れるとも思えない。






 数日後、話しながら歩いている二人を見た。

(やっぱり仲がいいな)


 信繁が信友の方を見ながら前を行き、ふと、見上げる高さにある若い木の枝を指差し微笑った。
 そして、少し助走をつけて飛び跳ね、その枝を掴んですぐ放した。すると、溜まっていた昨日の雨の雫が飛び散って太陽の光できらきらとする。続いて、信友がもう少し高めの枝を同じようにすると、勝ち誇った笑みを浮かべた。真下にいた信繁はその雫をまともに受けてしまう。それでも微笑んで、眼を細め、仰ぎ見る信繁の手首を掴んで引き寄せ、頭についた雫を着物の袖で払った。
 そんな二人を見てるだけでドキドキとしてしまう。


(これで念者じゃないなんて信じられるかっ…!)
 平三郎は心の中で叫んだ。




*****

二人は本当に念者じゃないです。小山田信有殿は今回初登場なのですが、まぁ、武田の唯一の同盟者という立場にあるため偉そうなわけで、次回は、信繁様との絡みをかいてみたいです。平三郎と昌胤の関係はあのままです。孫次郎ともどうにもなりません。 

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