戦国時代2

□たけだ家・ご乱心
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「だからぁ、お屋形様の代わりに俺が抱いてやるって言ってんだ!この意地っぱりぃ!」
 信友は、腕を掴んで激しく怒鳴った。信繁は潤んだ瞳で首を横に振った。
「だって…、お前を…代わり…だなんてできない…」
 泣き崩れるようにしがみついて、肩口に額を擦り付けた。
 そのまま声を出さずに泣いた。
 泣かせたいわけじゃないのに。
 慰めようと肩を抱いた。

「泣くなよ、俺が悪かった。お前のこと大事なんだ。お屋形様じゃないけど傍にいてあげたいんだ」

 頭の後ろに手をやって、つとめて優しく声をかけた。




「―某の兄者を泣かせないで下さい」
 ちょんちょんと後ろから肩を指でつつかれヒヤッとした。

「う、うわっ!!い、一条殿!?」

「ひどいな、そんなに驚かなくても…。―信繁兄者、こんな男ほっといて、某と行きましょう」
 キョトンとしている信繁の手をつかみ、肩を抱いて信友から引き剥がす。

「お、俺はだな、信繁のこと心配して…」
 一条が掴んでない方の腕を掴んでひきとめようとした。
「ふーん、秋山殿のおせっかい」
 ニコッと笑って見せるが、心の中の黒さがにじみ出ていた。

「ささ、兄者いきましょう」
「あのなぁ、お前だってそうだろ」
 兄にべたべたなのは血ゆえか。ささっと連れ去っていく後姿にあきれた声をかけた。



「―お主も一条殿にはかなわぬようだな」
 一条が去って行った別の方から声をかけられた。

「今井殿」
 今井九兵衛信俊―秋山家と同じくお屋形様と同族の者だ。年もお屋形様と同じ。

「典厩殿と痴話喧嘩とはらしくない」
 上の者らしく穏やかな口調でたしなめられる。
「いつも一緒にいれば喧嘩ぐらいしますよ」
 ´痴話喧嘩`というのに否定しようとしたが、この者に言われるとどうでもいいぐらい落ち着いた。

「典厩殿を泣かして…。一条殿がほっとかないはずだ」
 責めるでもなく、困ったような笑みを浮かべていた。

「泣かせたのは、不可抗力です」
「なら、一条殿に任せておいていいのか?」
「俺は…」
 あのまま慰められたかわからない。一条殿が来て、少しホッとした。
 大体において信繁は強情だ。こうと決めたらなかなか考えを変えようとしない。だからこそ、幼い頃からお屋形様…実の兄を思い続けているのだろう。

「典厩殿のこと大事なのだろう?」
 そう言われても定まらない。

「俺は…」
 信繁の顔が浮かんでキュッと拳を握り締めた。



≪終≫


今回初登場の今井信俊殿にご注目を。
秋山と信繁様の関係は親友なんですが、秋山ってば信繁様に片思いなさってるんじゃって思いますね。朱華もそれを望んでますが。

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