戦国時代

□たけだ家・光る雫
1ページ/3ページ

 ―躑躅ヶ崎の館―


 玄関の階段の一番下の段に昌胤は腰掛け、心ここにあらずといった感じに足元の白砂利を見ている。



「どうした?ため息なんかついて、憂えるお主は美しいが」
「わっ!びっくり。なんだ一条殿かぁ。お屋形様の声にそっくりなんだもん」
 同い年の二人は気さくない。

「色々悩みはあるだろうけど、某でよければ相談に乗るよ?」
 先日、父をなくし、彼は若干十八歳で家督を継いだ。そのことで悩んでるんだと思ったのだ。

「うーん、じゃあ、言うけど、変に思わないでよ?」
 暫く思案してから口を開いた。
「多少のことでは…」

「念兄になってくれって言ってくる子がいるんだ」
「―いいことじゃない」
 的外れなことに一条は一瞬言葉を失うが、同じ小姓や近習に虐められていた昌胤がと思うと喜ばしいことである。

「だって、私にはまだまだ学ばなければならないことが沢山ある。自分に余裕もないのに、人の命は預かれないよぉ」

「それでも頼ってきてるんだから手を差し伸べてやればいい。かっこよくなくたって試行錯誤する姿を見せればいいと思うよ」
 どう学ぶか、どう苦難にたち向かっていくか見せてやればいい。
それが次代の者の能力となる。


「そうかなぁ?」
 昌胤は小首をかしげる。
「お主にはお主のいいとこがある。それを目指したいならそうさせればいいと思うよ」
「一条殿はしっかりしてるからいいよねぇ。苦労してるんだねぇ」
 そうしみじみといわれ、どっちが相談の乗ってるのだかわからなくなる。


「それより誰?その子」
「あぁ、筑前殿(金丸虎義)の長男の平三郎なんだ。ポテポテしてて可愛いんだよ」

「そう…、筑前殿ご自慢のね。確かに可愛いけど」
 名前を聞いて浮かぶ姿に、何がポテポテしてるのだろうと思う。別に太ってるわけではないので、昌胤の感じ方なのだろうと思う。

「昌胤殿はどう思ってるの?」

「宗四郎がね、好きみたいなんだ、平三郎のこと。だから、とらないっていっちゃった」

 一条はそれを聞いて苦笑を浮かべた。どちらにせよ、平三郎を念弟にはできないということだ。

 その時、回廊の上で言い争う声が聞こえてきた。

「―あれ?典厩殿と一緒にいるのって、勝沼殿だっけ?」
 温厚な信繁が声を荒げるなど珍しい。


「まーた、あいつかぁ…」
 一条は拳を握り締めた。せっかくの綺麗な顔が怒りに歪む。

「え、ちょっと…?」

 上を見ると、勝沼が信繁の手首を掴んで、壁に押し付けてるところだった。そこへ一条が乱入し二人を引き剥がした。


「てめぇ、どこから湧きやがった
!?」
 乱暴な言葉遣いに自分が言われてるわけでもないのにドキッとした。

「兄者に乱暴狼藉は赦さぬ!」
 一条は自分より背の低い信繁を後ろにかばう。

「背ばっか伸びて、昔から中身はかわんねえな」
「貴方もでしょう?」
「―仕方ねえな、出直すか」
 右へ向きを変え階段を下りてくる。
 勝沼は昌胤に気づくと嘲笑った。嫌な感じだった。

「待て、信元!話はまだ終わってないぞ!」
 信繁が勝沼の背中に怒鳴る。

「話があるならそっちからこいや。夜にでも」

 悪寒が走った。さっきまでの会話で一条がこの男を嫌ってるのがわかったが、理由はこれかと思った。



−−−−−

現地点での身長↓

信繁170p
信竜180p(まだまだ伸び盛り)
信元176p
昌胤160p(まだ伸びるかも?)
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ