戦国時代
□描くモノ
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この情人は、絵を描くのが趣味だ。お屋形様もだが、歌道に秀で、彫刻などもやっていた。
今日も、屋敷の中庭に面した縁側に座って、梅ノ木の絵を描いている。
信廉が描く絵の中で、源四郎は、馬の絵が好きなのだが、他は良くわからない。自然の木や草花、風景の絵に何の意味があるのか。例えば、陣場奉行の原昌俊と倅も風景の絵を描くが、それは、戦の為であり、観て楽しむものではない。
やがて日も傾きかけ、風が冷たくなってきた。
「信廉殿、風邪をひきます、部屋の中に入ったほうがいいです」
「……」
源四郎が、背中を向けている信廉に声をかけても返事もしないし、動く気配もなかった。
そこまで熱中しているのかと、今度はその肩に触れてみた。すると、そのまま前のめりになって落ちそうになる。それを慌てて支え、顔を見ると、目を閉じていて、規則正しい寝息まで聞こえてきた。
源四郎は可笑しくなって口元を緩めた。
信廉の手には絵筆が握られたまま、絵は、完成しているのか、未完成なのかわからない。
悪戯心に筆を抜き取り、梅の木が描かれている紙の余白にかき足した。
しばらくして目を覚ました信廉は、手元の絵を見て顔を真っ赤に染めた。
そこに描かれていたのは、自分の寝顔だった。
「けっこう上手いでしょう?」
ニタニタ笑みを浮かべて言った。
「ひどいな。これじゃぁ、お屋形様に見せられないではないか」
絵はまた描けばいいのだが、信廉はわざと言った。
ひとつひとつの仕種が可愛くて、抱きしめて、額に口付けした。
日が沈んで大分寒くなってきた−。
終