戦国時代
□彩
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ー第四次川中島の戦い後ー
皆が今までにない悲しみに包まれている。信繁伯父上が死んだ。それが、これほどまで大きなモノとは、思わなかった。あの父上が泣いていたのだ。それにつられるかのように、主だった将達も泣いている。
晴信の長男、義信は、その中に、傅役の飯冨虎昌の姿があるのに、ふと、苦笑した。
「伯父上のことを良く思わなんだお主が、泣くとはな。哀しいゆえか、それとも嬉しいゆえか?」
皮肉めかしに言うと、虎昌は、顔を赤くした。
「こんな小競り合いで、大事な伯父上を亡くすとは…。俺はもっと上を目指す。天下を取る!」
「義信様、声が大きうございます」
謀反だと思われてしまう。
「ふんっ、これで死ねば、俺もそこまでの男というだけだ。天下など取れん。父上を崇拝していた伯父上が死んで、これが好機となるやも知れぬな」
父上を護る為に、命さえささげた、信繁。
(まだまだ死ぬ時じゃなかったろうに)
瞼を閉ざした。
瞼を閉じるとよみがえる暖かな笑顔。
『お前は次世代だ。お屋形様が築き上げた武田をさらに強くしろ。―強く、賢い子をと、義姉上の胎内にいた頃から願っていた』
信繁は慈愛に満ちた眼差しでみつめてきた。
『申し訳ありませぬ。病気ばかりする子で』
皮肉を言うと、口元をほころばせた。
『信廉とて、昔は、身体が小さく、病弱だったのが、今は立派にお屋形様の役に立っている』
威厳ある父上と、それを補佐する優しい伯父上。昔から、そういう兄と弟の関係が、今の武田へつないできた。
飯冨は、この若者ならばと夢見てしまっていた。
そして、謀反の心有りと、実の弟の口からお屋形様に知れ、腹を切らされた。
義信も廃嫡され、1567年、幽閉先で病死することとなる−
終
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