戦国時代

□たけだ家・馬のきもち
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−1543年


 お屋形様の使いの帰り道、馬を走らせていると、木につながっている栗毛の馬を見つけた。

「?」

 斜面になっている草むらに色の白い少年が仰向けに眠っていた。
 自分と同じぐらいの歳だろうか?日に焼けていない細い腕は、農民には見えないが、刀や弓を扱う武士にも見えない。
(寺小姓とかか?)
 目を閉じているが、整った顔立ちをしているのが分かる。
 ジッと見つめていると、その目が開いた。

「ん−…、ん?」
 伸びをした少年は、自分に気づいたらしく、ジッとまっすぐな目を向けた。

(なんだ?)
 寝起きのせいか潤んだ目で上目遣いに見られたため、ドキッとした。
(やっぱり綺麗な顔をしてるな)
 美形と評判の春日源助と五分をはるかもしれない。


「飯富源四郎殿か」
 先ほどの間は名前を思い出していたからか。
「なぜ、俺の名を?」
「お屋形様の家臣の名はほとんど覚えているよ。小姓にいたるまでね。飯富虎昌殿の弟御で最近出仕してきたのだろう?」
 そう言って、人懐っこい笑みを浮かべた。
「お主は?」
「おっと、いけないっ!!そろそろ戻らないと、兄上を待たせてしまう」
 ガバッと起き上がり、繋いでいた馬の綱を解いた。
「源四郎殿、いずれまた」
 慌てて馬にまたがり、駆けていってしまった。

(誰だったんだ?《兄》が待っていると言っていたな。武田の武将か?−そういえば誰かに似ていたような)
 小姓という仕事柄、武将の名と顔は第一に覚えなくてはならないが、出仕前の子供のことはよくわからない。


 ■□■□■□

 お屋形様の部屋へ行く途中、庭で秋山信友と春日源助が楽しそうに話しているのが見えた。

(そういえば、あの少年、秋山殿に似ていたな)
 と、思わず立ち止まって見ていると、秋山が気づいてニコニコと手を振ってきた。

「///」
 源四郎は頭を下げ、パタパタと駆け去った。


(はあー。変に思われただろうな)
 見えないところまで一気に走ったため、息が上がる。

「−源四郎、遅かったな」
「わっ!!」
 いきなり声をかけられ、跳び上がった。
「お、お屋形様!」
「なんだ?化け物でも見たような顔をして。まあ、よい、和尚から文を受け取ってきたのだろう?」
 中に入れと促され、後に続く。
 部屋の床には、今朝はなかった髪が置いてあった。墨でなにやら描かれている。田植えをしているところ、髪いっぱいの大木、小さな花々など何枚もある。
 別に興味がなかったため、見るともなく見ていると、七つ下の弟が書いたものだと教えてくれた。
 けれど、一枚だけ目をひきつけたものは、二頭の馬の絵だった。黒と白の軍馬が並んで描かれている。その優しげな目が本物の馬のようだった。



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